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帝国主義

1870~80年代以降に顕著になった、資本主義列強による植民地や勢力圏拡大を目指す膨張政策をいう。19世紀末には軍備を増強し、「世界政策」を掲げる列強間の抗争が激化し、1914年の第一次世界大戦が勃発した。これは資本主義の展開過程で形成された独占資本が国家権力と結びついて国家独占資本主義が形成され、原料・資源、商品の市場、資本の投下先を国家的規模で拡張するため植民地獲得競争が激化したことを第一の要因と考えられる。帝国主義国家内部においては、国家利益がすべてに優先され、個人の自由は強く制限され、軍国主義と結びつくことが多かった。

独占資本の形成

 1870年代のイギリスで顕著になった、資本主義経済における産業資本と銀行資本が一体化することによって金融資本が成立した。並行して産業の中心が軽工業から重化学工業に移行する第2次産業革命が進展すると、巨大な資金が必要になったため、企業の淘汰、集中が進み、カルテル・トラスト・コンツェルンなど各種の形態をもつ独占資本が形成されていった。この独占資本主義のもとでは自由な競争は阻害され、巨大資本国家権力と結びつき、その利害に沿って、国家が軍事力によって領土、勢力圏、植民地の拡大を図る膨張政策が採られるようになった。このような段階を「帝国主義」と呼び、その用語を最初に使ったのは、イギリスの経済学者ホブソンやドイツの社会主義者カウツキーであったが、それらをふまえて、レーニンは1916年に著した『帝国主義論』で、次のように定義した。それによると、
  1. 生産と資本の集中・集積による独占の形成
  2. 産業資本と銀行資本の融合による金融資本の成立
  3. 商品輸出にかわり資本輸出の増大
  4. 国際カルテルによる世界市場の分割
  5. 帝国主義列強による植民地分割の完了
が帝国主義の5点の特徴として挙げられている。

国家独占資本主義

 第一次世界大戦中、レーニンは上記の帝国主義論で、帝国主義の本質を国家独占資本主義というマルクス経済学上の用語で説明した。それによれば帝国主義段階での、国家と独占資本が結びついた資本主義の一形態をさす。第2次産業革命後の重化学工業化は、資本主義列強の間にもアメリカ・イギリス・フランスなどすでに資源や植民地を豊かに保持する国と、国家統合が遅れ資源・植民地が少ないドイツ・イタリア・日本などとの格差が大きくなっていった。
 1929年世界恐慌は、そのような格差を明確にし、特に遅れた諸国ではドイツのナチズムやイタリアのファイズム、日本の軍主導による統制経済などでは、国家独占資本主義の経済体制がとられるようになった。アメリカで恐慌対策として取られたニューディール政策も、経済に対する国家統制を強めるという面では、その変形の例と見ることもできる。

8カ国の列強

 19世紀末~20世紀、帝国主義列強として海外領土・植民地を争った諸国を特に列強という。20世紀初頭に帝国主義的な意味の植民地を所有していたのは、イギリス・フランス・ドイツ・ロシア・アメリカの5大国と、イタリア・ベルギー・日本の併せて8カ国であった。この列強8カ国は、1876年から1914年までの間に、約2億7000万人の住む2730万平方キロメートルの植民地を新たに手に入れ、それ以前に領有していた分に加え、地球の総面積の半分以上を占め、世界人口のほぼ3分の1が住む土地を植民地として支配することになった。<木谷勤『帝国主義と世界の一体化』世界リブレット40>
 → イギリスの帝国主義  フランスの帝国主義  アメリカ帝国主義  ロシアの帝国主義
 なお、「帝国主義」は通常は1870年代から第一次世界大戦までの資本主義列強による膨張政策を指しているが、広義に用いて、世界史上の膨張政策をとる国について述べる場合もある。また、「帝国」の概念についても新しい用例が見られるので、帝国の項を参照して下さい。

参考 教科書・用語集に見る「帝国主義」の説明

 「帝国主義」については独占資本の形成という資本主義の形態の変化から説明するのが通常であるが、最近の高校世界史の教科書・用語集に変化が現れている。
  • 山川出版社『詳説世界史B』p.308-310 2008年の改定から、列強が植民地を拡大した背後には「欧米諸国内に、ヨーロッパ近代文明の優越意識と非ヨーロッパ地域の文化への軽視がひろまり、非ヨーロッパ地域の制圧や支配を容易にする交通・情報手段が発達し、軍事力が圧倒的に優勢であるという事情があった」という説明的な文章が入った。しかしこれはあくまで「背後の事情」にすぎない。
  • 山川出版社『世界史B用語集』p.256 かつては「独占資本主義段階にはいった列強の19C末以来の対外膨張政策」とあったが、2008年版から、列強が膨張政策をとった背景として、①独占資本主義段階にはいった列強が植民地を求めて世界分割を進めて利益を上げようとした説、②高まる労働運動や社会主義運動に対処する社会政策のために植民地を拡大し利益を得ようとしたという説(社会帝国主義)、の二つを説としてあげるようになった。そして2014年以降の現行版でも大筋を継承している。
  • 帝国書院『新詳世界史B』p.232-236 本文で「重化学工業・電気工業・石油産業を中心とする新しい産業が誕生した(第2次産業革命)。これまでの産業革命(第1次)をリードしてきたイギリスは産業構造の転換に立ち遅れ、南北戦争後のアメリカ合衆国と、統一後のドイツが、新産業の創出をリードした」とし、「新産業は巨額の設備投資を必要としたので、産業資本と銀行資本が結びついた金融資本の役割が増大した。並行して、カルテル・トラスト・コンツェルンによる市場の独占も進んだ。資本主義は、自由競争の時代から、少数の巨大企業が市場を支配する独占資本主義の時代に入っていった。そして1870年代半ばになると、武力で海外市場を維持・維持しようとする傾向が強まることとなる(帝国主義)。」としており、従来の独占資本重視の記述になっている。さらに欄外の注でキーワードとして帝国主義をとりあげ、「狭義には、1870年代半ばから1914年の第一次世界大戦にいたる、列強間の植民地獲得競争期を帝国主義の時代とよぶ。当面の採算性を無視してアフリカ奥地や太平洋上の島までもが占有された背景には、ナショナリズムによる競争心に加えて、資源が埋蔵されているかもしれないという期待があった」と説明している。
  • 実教出版『世界史B新訂版』p.286-287 1880年代から植民地獲得競争が激しくなり、世界分割が進んだ世界史の新しい動きを帝国主義とし、それによって世界は支配と従属という関係におおわれていったと説明し、そのさまざまな要因として、①第2次産業革命による独占資本、金融資本の形成という経済的要因。②世界の中での地位の向上、外交面での優位を追求する競争の激化。②国内の労働運動や社会主義運動が活発化したのに対し、領土の獲得で国民の不満を国外にそらせる働き。③他民族支配の正当化のため人種主義や愛国主義(黄色人種に対する黄禍論など)がひろがった。④世界の結びつきが緊密化し、地域間の移動、情報伝達などが飛躍的に増大した、グローバリゼーションの先駆的な動き。の4点を指摘している。
 以上、現在では「帝国主義」およびその時代を「独占資本の形成」だけの観点で説明するのではなく、その側面的な事情も含めて多角的に理解するようになっていると言える。その変化は帝国主義時代の植民地の理解にも及んでいる。しかし、帝国主義によって侵略された側、植民地化された側の事情だけで帝国主義を説明するのは本筋からはずれてしまう気もする。
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レーニン
『帝国主義』
岩波文庫

木谷勤
『帝国主義と世界の一体化』
世界リブレット40
山川出版社