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スペイン銀貨

新大陸の銀を独占したスペインによって鋳造され、世界通貨として広く流通した。16世紀後半から太平洋を越えて中国に大量に流入して日本銀を圧倒し、東アジアでも共通通貨となった。

 スペインは、1545年からの南米ボリビアのポトシ銀山、17世紀末以降はメキシコ産の銀を独占し、ヨーロッパとともに中国にも交易の対価として持ち込んだ。新大陸の銀山では水銀アマルガム法による大量の精錬が可能になり、16世紀後半には中国では日本銀を圧倒するようになった。 →  メキシコ銀

世界通貨 ピース・オブ・エイト

スペイン銀貨

スペイン銀貨
通称 piece of eight

 スペイン政府は、南米のペルーのポトシ銀山(現在はボリビア領)や北米のメキシコで採掘された銀をメキシコで銀貨に鋳造した。このスペイン銀貨はピース・オブ・エイトと呼ばれて1570年代に鋳造されてから、19世紀まで、事実上の世界通貨として流通した。現在のカードと同じように、スペイン銀貨があれば、世界中どこでも決裁できたのである。
 実際のスペイン硬貨ピース・オブ・エイトは直径が約4センチ、重さは約27gある。当時のスペイン・レアル硬貨の8倍の価値があったため、スペイン語で「8枚分の硬貨」と言われたので、英語では piece of eight とも呼ばれた。『宝島』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの映画で、海賊ジョン・シルバーの肩に乗ったオウムが「ピース・オブ・エイト!」と叫ぶので有名だ。
 原料の銀は、ポトシ銀山で採掘された。その銀で鋳造したスペイン銀貨は、16世紀スペイン帝国のフランス、オランダ、イギリス、トルコとの戦いを可能にした。しかし、その歳出もまた、17世紀のスペイン帝国の急速な衰退を招いた。
 スペイン銀貨はアカプルコからガレオン船でフィリピンのマニラに運ばれ、中国商人のもたらす絹、陶磁器、漆器、香辛料などと交換され、アジアの経済を潤した。<ニール・マクレガー/東郷えりか訳『100のモノが語る世界の歴史3』2012 筑摩書房 p.143> → 資本主義的世界経済

ドルの時代へ

 スペイン銀貨が世界中に流通するようになると、スペインでは単位をペソと言ったが、イギリス・アメリカでは「スペイン・ドル」と言うようになった。ドル doller とは、もともとは16世紀にボヘミアの銀鉱山で鋳造されたヨアヒムスターラー (Joachimsthaler) という銀貨の名前から来ており、この銀貨が純度が高かったから質のよい通貨のことをそう呼ぶようになり、スペイン銀貨もその短縮形のターラーが訛ってダラーと呼ばれるようになった。
 スペイン銀貨はメキシコで鋳造されていたので、1821年にメキシコが独立すると、メキシコ銀(メキシコ・ドル)と呼ばれるようになり、依然としてアジア貿易の基軸通貨として決済に使われていたので、各国はそれを基準にドル銀貨を競って鋳造した。

Episode 日本でお金をなぜ「円」というのか

 現在、日本の通貨の基本単位は「円」。そして中国は「元」で韓国は「ウォン」。東アジアの通貨の基本単位は、実は同じルーツがある。それは近世東アジアで国際通貨として流通していたスペイン銀貨であり、メキシコで鋳造されたのでメキシコ銀とも、あるいは洋銀と言われていた銀貨である。特に基本通貨とされたのが、「8レアル貨」(ピース・オブ・エイト)といわれる重さ27g、純度93%の鋳貨で大量に出回っていた(上の図)。中国では、アメリカ大陸から流入した銀貨は、はじめは鋳つぶされて馬蹄銀などにされ、いちいち重さを量って取引に使っていた(秤量貨幣)が、次第に重量・純度が一定で数えやすい「8レアル貨」がそのまま使われるようになった。
 その8レアル貨は18世紀前半のものは柱が二本(ジブラルタル海峡にヘラクレスが建てたという柱)描かれているので「双柱」(上の写真)と呼ばれ、国王カルロス3世の像を図柄にした18世紀後半のものは「仏頭」などともよばれたが、数えるときは円いので「一円、二円」などと数えていた。円は中国語で元と同じ発音なので「元」の字を充てることもあった。日本が明治になって新しい貨幣制度をつくろうとしたとき、さまざまな論議はあったものの、「円」がすでに国際通貨の単位として使われていたのでそれを採用したのだった。19世紀末に中国や朝鮮が近代的な貨幣制度を導入しようとしたとき、同じく円に由来する元(ユアン)を中国が、圜(ウォン)を朝鮮が採用した。これら三国の通貨は、近世東アジアのスペインドルという共通の根をその呼称に残しているのである。<岸本美緒『東アジアの「近世」』世界史リブレット13 1998 山川出版社 p.26-28>

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ニール・マクレガー
/東郷えりか訳
『100のモノが語る世界の歴史3』
2012 筑摩書房

岸本美緒
『東アジアの「近世」』
世界史リブレット13
1998 山川出版社