印刷 | 通常画面に戻る |

律法/律法主義/トーラー

ユダヤ教の特色である、神と教徒との契約を守ること。バビロン捕囚を経ることによって信仰、生活両面での厳格な律法を守った。

 ユダヤ人の民族宗教であるユダヤ教で、唯一の創造主である神(ヤハウェ)とユダヤ人とが交わした契約であり、ユダヤ人として守らなければならない信仰上の義務、生活上の規則を律法という。ヘブライ語ではトーラーといい、またユダヤ教の特色のひとつである律法を厳しく守る教えのことを律法主義という。具体的には律法=トーラーとは、聖書(キリスト教でいう旧約聖書)の主要部分である「モーセ五書」=創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記をいう。

選民思想と律法主義

 ユダヤ人は神との契約である律法を守ることを選民の条件と考え、信仰だけでなく日常生活でも厳しく自ら律法を守ることを義務づけた。選民思想(ユダヤ人は神から選ばれた民であるという思想)と律法主義はユダヤ教の大きな特色である。ユダヤ人の民族的体験である出エジブトの際にモーセによって与えられた十戒が中心的な律法であった。

バビロン捕囚によって強まる

 選民思想、律法主義は前6世紀に、ユダヤ人がバビロン捕囚という民族的苦難を体験する中で形成されてきた。 ユダヤ人はイェルサレムのヤハウェ神殿を聖所として崇拝したが、イェルサレムを離れてからは、各地にシナゴーグ(集会所)をつくり、聖書(旧約聖書)を読みながら信仰を守ったが、その章句を巡る解釈として受け継ぎながら形成されたのがトーラ―であり、その訳語として律法の文字があてられている。
(引用)「トーラー」は決して無味乾燥な法典ではなく、それは人間の生活と行動のあらゆる面にわたる基礎として役立った。それは更に完全に解釈されるために、絶えずくり返しくり返し吟味されていった。こうして膨大な範囲の全部と厳格な教えをもつこの体系が、何の抵抗もなく、熱意を持って採用された。ユダヤ人は捕囚から帰ったときは、ある程度教育ある集団となっていた。それまで彼らの宗教的理想は、「神殿」礼拝に集中していたし、その後の信仰の実践の根本にも全く無知であった。その後の時代も非常に不明瞭な時代であった。しかし、彼らが帰還後4世紀経ち、幕が再びすっかり上がってみると、場面は一変していた。そこには熱心な一神教の信仰と一定の生活基準をもつ他民族とは全く異なる民族となっていた。その日常生活の一挙手一投足はトーラーによって支配され、それを一点一画に至るまで、その含む裏面の意味まで実行するよう努めた。<セーシル=ロス『ユダヤ人の歴史』1961 みすず書房 p.51>