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リチャード3世

イギリス(イングランド)のヨーク朝国王。1485年、テューダー家ヘンリに敗れ、バラ戦争終結に向かう。

 15世紀、中世末期のイギリスで起こった王位継承をめぐる内乱であるバラ戦争(1455~1485)の最後に登場した国王。ランカスター朝を倒したヨーク家のエドワード4世の弟。グロスター公を名乗る。ヨーク朝を創始したエドワード4世が1483年に死ぬと、その子エドワード5世が継承したが、叔父の護国卿グロスター公リチャードはいきなりエドワードをロンドン塔に幽閉してしまった。リチャードは、兄エドワード4世はヨーク公の庶子に過ぎず、自分こそが嫡子であるという噂を流して、エドワード5世を廃位し、自らリチャード3世として即位したのだった。さらにエドワード5世とその弟をロンドン塔内で殺害し、他の王位継承候補者や反対派の貴族を次々と残虐な手法で暗殺して権力を握った。その王位簒奪と残虐な行いに多くの貴族も恐れをなしていたが、起ち上がったのがブルターニュに亡命していたランカスター家とつながるテューダー家のヘンリだった。リチャード3世は、1485年にウェールズに上陸してイングランドに向かったヘンリと8月ボズワースの戦いで敗れて殺害され、ヨーク朝は滅亡、バラ戦争も終結した。ヘンリはヨーク家の女性と結婚してヘンリ7世となりテューダー朝を開いた。

資料 シェークスピアの描いたリチャード3世

 シェークスピアの戯曲『リチャード3世』(1592-93)では、グロスター公リチャードが冒頭の独白でこんなことをいう。“だが、おれは、色恋のほうには向いておらんし、鏡を見てうっとりというわけにもいかん。おれは、出来そこないだ、なよなよした美人の前を気取って押し歩く柄でもない。おれは、兄貴と違っていんちきな造物主からこんな不様なからだにうみつけられて、いびつ、未完成、半出来のまま、早々とこの人間世界にひり出されてしまった。なにしろ片脚が短くて不格好だから、よたよた歩いていると犬もほえかかる。とすると、だ、のどかな笛の音のようなこの太平の御時世に、時をつぶす何の楽しみがある?太陽が映しだす自分の影を横眼にみながらわが醜さを戯れ歌にでもしてみるほかには。とすれば、だ、この巧言令色の御時世を泳いで回る好き者にはおれはなれんのだからして、おれは決めた。悪党になる。当世風の下らん快楽を憎んでやる。・・・”シェークスピアは、リチャードを自虐的な反抗心から、邪悪な隠謀を企み、王位を簒奪した残虐な男として描いている。しかしその野心はボズワースの戦いでヘンリに敗れる。逃げようとするリチャードの最後の台詞。“馬だ!馬だ!王国がどうした、馬だ!”<シェイクスピア『リチャード三世』木下順二訳 岩波文庫 p.11-12,p.203>

Episode 藪に捨てられた王冠

 リチャードの死体は裸にされてレスターに運ばれ、修道院で二日間さらしものにされた。また王冠は藪の中に捨てられていたが、スタンリー伯に拾われ、ヘンリの頭に届けられたという。<ジョン・フォーマン『とびきり愉快なイギリス史』ちくま文庫 p.85、アンドレ=モロワ『英国史』上 新潮文庫 p.265>

Episode リチャード3世の遺骨発見?

 2012年9月13日の共同通信、ロイター通信のロンドン発の記事によると、イギリス中部レスターで、リチャード3世の可能性がある成人男性の遺骨が発掘されたという。発掘したレスター大学の考古学研究室では遺骨のDNA鑑定を行う予定だそうだが、リチャード3世はレスターに埋葬されたとされており、教会跡地の地中で発見され遺骨は(1)頭蓋骨の損傷(2)教会に埋葬(3)著しい側湾症の病歴―など、文献上の資料と一致する点が多いそうです。リチャード3世が死んだ1485年は、日本でいえば山城の国一揆が起こった年にあたる。そのころの歴史上の人物の遺骨が見つかったら面白いですね。
リチャード3世、青い瞳  リチャード3世遺骨発見のニュース続報です。2014年12月11日付け朝日新聞によると、先に発見されたリチャード3世と思われる人骨のDNA解析がレスター大学など6ヵ国の国際研究チームによってすすめられ、結果がイギリスの科学誌に発表された。リチャード3世の直系は絶えているので、姉の子孫を割り出して女系のDNAを比較したところ、人骨は高確率でリチャード3世だと裏付けられ、青い目で幼少期はブロンドの髪だったことがわかった。ブロンドは成長とともに濃くなることが多いので王位に就いたころには茶色だった可能性が高く、現存の肖像画と一致する。またリチャード3世の曾祖父の兄弟の子孫5人のY染色体を比較したところ5人ともリチャード3世とは違うタイプであったので、チューダー朝につながる家系図の記録とは一致しないことが判った。
 研究チームはこれまで、人骨の背骨が曲がっていたこと、「戦場で死んだ最後の国王」との見方を裏付けるような頭部の剣や斧による傷跡10ヶ所を見つけているという。<朝日新聞 2017年12月11日夕刊 化学欄>

参考 『王家の遺伝子』

 2019年6月に石浦章一『王家の遺伝子』講談社ブルーバックスが刊行された。著者は国立精神・神経センター神経研究所、東大分子細胞生物学研究所などで研究を続ける理学博士で、DNA解析の専門家という。副題を「DNAが解き明かした世界史の謎」というのでさっそく読んだ。まず取り上げているのがレスターの駐車場跡から見つかった人骨が、なぜリチャード3世の遺骨だと断定できたか、についてで、新聞報道よりも詳しく説明されている。DNAについての理学者らしい説明はもちろんあるのだが、そのあたりは置いておき、簡単にまとめると次のようになるらしい。ポイントになるのはミトコンドリアDNAで、それは母親だけから子どもたちに伝わる。そこでリチャードの家系図の女系を正確にたどってその子孫が見つかり、そのDNAと駐車場の人骨が一致すればこの骨はリチャードのもとの可能性が大きくなる。そこで研究チームが家系図を調べたところ、リチャードの姉のアンの15代目の女系子孫がカナダに住んでいることが判り、そのDNAを検査したところ、完全に一致した。これでこの人骨はほぼ間違いなくリチャード3世のものであることが判ったのだ。その他同書には、ツタンカーメンやラメセス3世、イギリス王ジョージ3世、アメリカ第3代大統領ジェファソンなどが話題として取り上げられており、世界史の情報としても面白い。しかし著者は一方で遺伝子組み換えや、デザイナーベイビーなどの問題にも注意を喚起しており、またDNAで先祖がわかってしまうことがはたしてよいことなのか、とも問いかけている。<石浦章一『王家の遺伝子』2019 講談社ブルーバックス>
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書籍案内

シェークスピア/木下順二訳
『リチャード三世』
岩波文庫

ジョン・フォーマン
『とびきり愉快なイギリス史』
ちくま文庫

石浦章一
『王家の遺伝子』
2019 講談社ブルーバックス
DVD案内

リチャード3世の遺骨をめぐるドキュメンタリー
2013年発売の英語版