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トーテミズム

祖先神であるトーテムを軸とした宗教的、社会的な規範。

 特定の動物や植物をトーテム(部族の共通の祖先を表す標識)とし、ある集団を象徴する神(多くの場合祖先神)として崇拝することをトーテミズムという。原始宗教の一つの形態として各地の文化にその名残を見ることができる。トーテムはアメリカ大陸のインディアンの言葉で、トーテムとされる動植物を彫刻した柱(トーテムポール)を集落の周囲に建てることが行われていた。またトーテムとされた動植物を食べたり害を加えたりすることは共同体の中で禁止されている。ポリネシアなどで広く見られるこのような禁忌をタブーという。トーテムとタブーは宗教であると共に一つの社会制度として機能していた。
 トーテミズムは北米大陸のアメリカ=インディアンだけではなく、オーストラリア大陸の先住民アボリジニーの社会にも認められ、人類の普遍的な原始的宗教であるアニミズムの中の一つの形態である。

オーストラリア・アボリジニーのトーテミズム

 狩猟採集民のトーテミズム宗教儀礼について初めて詳細な調査、研究を行ったのは、1899年に発表されたギレンとスペンサーによるオーストラリアの先住民アボリジニー社会についての著作であり、それまで西洋人と接触することの少なかったアボリジニーの生活様式や宗教儀礼の詳細な報告は世界の人類学に大きな影響を与えた。トーテムとは次のように説明されている。
(引用)「アルチェリンガ」と呼ばれる世界のはじまりのとき、世界は混沌としており、人間も動物も植物も今日のようなかたちはしていなかった。それらは眼も耳も鼻もなく、食べることもせず、身体の線がぼんやりあるだけの存在であった。そこで「ゼロから生まれた」と呼ばれる二個の存在が、大きな石のナイフをもちいてこの未分明なものを切り分け、手や足や眼をつくっていった。この未分明なものは、実のところは人間になりつつあった動物や植物にほかならなかった。そのため、このときつくられた人間とそこから生じた子孫は、彼らの元となった動物や植物と今なお緊密な関係を保ちつづけている。この存在がトーテムと呼ばれるものであり、人々はそれぞれの動物や植物の名前を自分のたちの集団(氏族)の名前とし、毎年儀礼を行ってその再生と繁殖を祈願する。こうしたトーテムを核とする宗教的社会的制度がトーテミズムと呼ばれるものである。<竹沢尚一郎『ホモ・サピエンスの宗教史』2023 中央公論新社 p.70>
 18世紀末にヨーロッパ人が入植する以前のオーストラリア全土には、400~500の民族があり、それぞれの民族に500人から1500人の構成員がいた。一つの民族には数十のトーテム集団が含まれ、各集団のメンバーは年に一度、特定の場所に集まってトーテム種の増殖儀礼をおこなう。その時期は動物をトーテムとする氏族であれば動物が子を産む時期、植物をトーテムとする集団であれば花の咲く時期と決められている。トーテム種の増殖儀礼は、集団の活力を再生する儀礼であり、先祖が最初に生まれたとされる土地に行き、身体に先祖のかたちを塗り、先祖の記憶の残る岩や木や洞窟の前で行われる。トーテム種にはエミュー(大形の鳥)、芋虫、カンガルーなどの動物のほかに植物もある。儀礼には増殖儀礼以外にも、葬送儀礼と喪明けの儀礼、イニシエーション(成人など)儀礼などがある。<竹沢『同前書』p.69-85>