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ドーラヴィーラー

1990年代に発掘された、インダス文明の巨大都市遺跡。インダス下流のインド側にある。

インダス範囲
インダス文明主要遺跡
 ドーラビーラ、ドーラ=ヴィーラなどとも表記されている。モエンジョ=ダーロハラッパーロータルなどに加え、最近(1990年代)に発掘されたインダス文明の遺跡。インド西部のグジャラート地方のカッチ湿原にある丘陵地帯で発見された。この遺跡は大量の石材を用いて建造された都市遺跡で、頑丈な外壁と内壁で囲まれており、集水溝・貯水槽といった水利施設が完備していたことが知られる。<『世界各国史 南アジア史』2004 山川出版社 p.20>
 教科書では、東京書籍『世界史B』の註で「ドーラ=ヴィーラは最近、インドのグジャラートで発見されたモエンジョ=ダーロ級の大都市遺跡である。」と紹介されている。<『世界史B』2006 東京書籍 p.62>

ドーラヴィーラー遺跡の不思議

 1990年代にその存在が明らかになったドーラヴィーラー遺跡は、それまでの古代文明観に一石を投じた。それは、この文明がインダス文明に属していると考えられるにもかかわらず、インダス川から300kmほど離れており、そこから河水をひいた形成はないことである。つまり、古代文明は大河の流域に出現したという常識に反していたのである。そして遺跡の中で目立つのが都市を取り囲むように造営されている多くの貯水槽は近くの枯れ川とつながっている。この枯れ川はモンスーン(雨期)になると水量の多い川になる。そこから水を引いて貯水槽に溜めて乾期に備えたと考えられる。つまり、この文明は大河でなくモンスーンがもたらしたものであった。またドーラヴィーラーから発見された多数の文字とおもわれる図柄が出土しているが、インダス文字と同様、まだ解読されていない。いずれにせよこの遺跡の今後に研究に期待が寄せられている。

NewS 世界最古の競技場と看板?

 2000年3月4日付朝日新聞は朝刊トップで「インダス文明の街発掘 紀元前3000年ドーラビーラ遺跡」を報じた。同紙に拠れば、インド政府考古局が、「紀元前3000年から同1500年までのインダス文明の都市構造がほぼ完全に残る、西部グジャラート州ドーラビーラ遺跡の主要部を発掘」、「東西781m、南北630mの外壁の中に城砦や公共広場、住宅街が整然とならび、水道施設が完備している。モヘンジョダロ、ハラッパ遺跡に匹敵する古代都市で、当時の都市の全体像と発展の様子を初めて解明できると期待されている。インダス文字の大看板や印章200点以上、土偶や青銅器、多数の土器も出土した」という。城砦の北に幅47m、長さ283mの広場と両側の観客席らしい段つきの斜面があり、発掘責任者のビシュット博士は「世界最古の競技場」と呼んでいる。また広場の入口付近から、インダス文字が象眼された板が出土しており、「世界最古の看板」が門に掲げられていた、とみられている。<朝日新聞 2000年3月4日 一面記事>

Episode インドが待ち望んだ遺跡発掘

 同記事の解説で南アジア史専門の辛島昇(大正大教授)は「インダス文明は、世界の四大文明のひとつでありながらなぞにつつまれた部分が大変に多く、その文字も未解読である。ドーラヴィーラの遺跡は、文明の二大都市モエンジョダロとハラッパよりずっと南方にありながら、それに匹敵する規模を持つものとして世界的に注目されている。これまで発掘が進展していなかったが、最近インド政府が力を注ぎ始めた。・・・インダス文明について、目玉の二大都市をパキスタンに押さえられてきたインドとしては、久々に力の入る発掘で、このような面での競争は、学問的に良識のあるものである以上、大いに歓迎されるところである。」と述べている。<朝日新聞 同記事の解説>
 遺跡発掘でもインドとパキスタンが競っているわけだ。確かに核兵器開発競争よりは健全だ。

ドーラヴィーラー遺跡の価値

 ドーラヴィーラはモエンジョ=ダロ、ハラッパーに次ぐ、インダス文明三番目の規模の都市遺跡である。インド考古局では1960年代からその存在が分かっていたが、本格的に発掘を始めたのは90年代である。インダス文明は金石併用期(4500~4000年前)の文明だが、大事なことはパキスタン側のモヘンジョ=ダロ、ハラッパーの二つの都市遺跡と違い、破壊されていないと言うことだ。ハラッパーの煉瓦が鉄道の道床用砕石などになったのにくらべ、ドーラヴィーラは人間の手による破壊もなければ塩害のような自然による破壊もない。完璧な姿で残る。つまり、最古の部類に属する都市の全貌がわかる期待がある。
(引用)それが一躍世に出たのは、2000年3月、任期終盤のクリントン・アメリカ大統領訪印の折に、インド側がこの遺跡を見せようとしたためである。ふたん、政治、経済が中心の特派員たちが、その遺跡名を耳にしたときに、「それはいったいなんだ!」とざわめきたった。<大村次郷『カラー版遺跡が語るアジア』2004 中公新書 p.6>
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大村次郷
『遺跡が語るアジア』
カラー版 2004 中公新書

インドの他に、トルコ、ネパール、カンボジア、中国、ラオスなどの話題の遺跡を訪れた記録写真集。