トラファルガーの海戦
1805年、スペイン沖でネルソン提督指揮のイギリス海軍が、ナポレオンの派遣したフランス・スペイン連合艦隊を破った海戦。ナポレオンのイギリス侵攻を阻止した。
ナポレオンの皇帝即位に対してイギリスの首相ピットは第3回対仏大同盟の結成をよびかけてフランスの大陸支配を阻止しようとした。それに対してナポレオンはフランス・スペイン連合艦隊を地中海からドーヴァーに派遣してイギリスに圧力を加えようとした。1805年10月21日、ネルソン提督の指揮するイギリス海軍はジブラルタルを超えてスペインのカディス沖、トラファルガーに現れたナポレオン海軍を捕捉し、それを撃破した。ネルソン提督は戦死したが、海上での勝利はナポレオンのイギリス征服を阻止した。しかしヨーロッパ大陸内では同年12月のアウステルリッツの戦いでナポレオン軍が勝利し、大陸支配を実現した。
海戦の様子
(引用)1805年10月21日、スペインのカディス港の南、トラファルガー岬沖で、ヴィルヌーヴ指揮のフランス・スペイン連合艦隊は(トゥーロンからドーヴァーに向かう途中)、ネルソン指揮のイギリス艦隊に捕捉され、カディス港に追い込まれた。地中海に逃れようとしたとき、ネルソンとコリンウッドの艦隊が現れ、再びカディスに逃避しようとしたが間に合わず、砲火を交え、33隻のうち3分の1の艦と水兵約六千九百を失った。イギリス側はネルソンが戦死したが一隻の損失もなく圧勝した。この戦いによって、ブーローニュにイギリス上陸部隊15万を終結させていたが作戦を放棄しなければならなくなった。<井上幸治『ナポレオン』岩波新書 P.117>
Episode 海戦珍談
(引用)トラファルガーの海戦で砲弾がうなりをあげて飛び交い、マストが音を立てて倒れる戦闘のさなかに、ひとりの水兵はなお、虫に食われたところ、つまり頭を掻く暇があった。親指と人差し指でさっと虫をはさむと、今や虜われの身となった哀れな虫けらを、慎重に髪を梳(す)くようにすべらせて床の上に落とした。ところが、こいつの息の根を止めてくれんと、かがみこんだそのせつな、敵の砲弾が彼の背中をかすめて飛び過ぎ、隣の船に命中して、どかん!という音と共に炸裂したのであった。そのとき水兵は感謝の念に襲われた。もしこの虫をひねりつぶそうとかがんでいなかったら、自分はあの砲弾で木っ端微塵になっていたにちがいない。そう思うと彼は、その虫けらを大切に床から拾い上げ、もう一度頭の上に置いてやった。「おまえは俺の命の恩人だものな」と彼は言った。「でももう二度と捕まるんじゃないぞ。だっておまえかどうか見分けがつかないだからな。」<ヘーベル/木下康光訳『ドイツ炉辺話 カレンダーゲシヒテン』1808 岩波文庫 1986 p.161>