印刷 | 通常画面に戻る |

ゲーテ

18~19世紀初頭、ドイツ古典文学の代表的文学者。1774年に『若きウェルテルの悩み』を発表、ドイツの疾風怒濤の時代の幕開けとなった。ヴァイマール公国で政治家としても活躍、フランス革命が始まるとプロイセン軍に従い、ヴァルミーの戦いに遭遇。その後は文学に専念し多くの作品を生み出した。代表作は『ファウスト』。

 ヨハン=ウォルフガング=ゲーテ(Goethe 1749~1832)はフランクフルトの富裕な市民として生まれ、24歳の時に『若きウェルテルの悩み』を発表した。これは、自身の恋愛経験から、因習と伝統を否定して個性と自由に生きる青年を描き、ドイツにおける疾風怒濤(シュトルムウントドランク)の時代の先駆けとなった。大学卒業後は弁護士となり、ヴァイマール公国に招かれ、30歳で大臣に抜擢されるという政治家としても成功を収めた。その後も人妻との恋愛や女工との恋愛、結婚など人生経験を重ねる。フランス革命が起こると、プロイセンの革命干渉軍に加わって従軍し1792年ヴァルミーの戦いに遭遇、プロイセン軍の敗北を見て「この日ここから、世界史の新しい時代が始まった」 と日記に記したと言われている(これには疑問もある)。

疾風怒濤の時代

 啓蒙主義の時代のドイツでは、プロイセンのフリードリヒ大王やオーストリアのヨーゼフ2世が啓蒙専制君主として登場したが、それはいわば上からの光であり、独裁権力の隠れ蓑でもあった。市民にとって社会や政治への不満が鬱積し、特に若い世代に古い因習からの感情や行動の解放自由を求める動きが強まった。1760年代末のドイツでは様々な新しい動きが起こったが、それらはシュトルム・ウント・ドランク、日本語では「疾風怒濤」といわれ、まるで嵐と雨と風のようにはげしい感情や行動の爆発が見られた。
(引用)シュトルム・ウント・ドランクは、ドイツの町をふきあれた。ことに、若年の大学生たちのあいだに、厚い共感をひきおこした。穏健な啓蒙に対して、みちたりぬものを直感した青年は、父たちに世代抗争をいどんだのでる。生命と青春をかけて、因習のドイツに反発した世代、疾風怒濤は抵抗の合い言葉となった。
 いかにも未熟な青年の喚声だ。まだ、定型など思いもよらぬ乱舞であった。だが、ここにシンボルともいうべき役割をはたす小説があらわれる。1774年に刊行された『若きウェルテルの悩み』である。その著者は、いまだ無名のフランクフルト人、ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。25歳の作家は、一躍、ドイツの寵児となった。<樺山紘一『《英雄》の世紀』2002初刊 2020講談社学術文庫再刊 p.45>
 『若きウェルテルの悩み』の主人公ウェルテルは、友人の婚約者ロッテに恋し、友情と恋情のはざまに苦悩する。友人からの絶縁状がとどいた夜、ウェルテルはピストル自殺をはかる。当時の理性からすれば眉をひそめるような結末であるが、ウェルテルの行動には青年だけでなく壮年のドイツ人から熱っぽい支持がおくられた。自殺ブームが起こってしまったのである。他人の婚約者に対する恋とそれに悩んでの自殺、という反道徳的、反知性的な若者の行動が初めて文学として取り上げられたのがこの作品であった。

ゲーテとナポレオン

 1806年、ナポレオン軍はイエナ・アウエルシュテットの戦いで、プロイセン軍を破った。このとき、ごく近傍で敗戦を体験し、フランス兵の乱入にたちあったゲーテであったが、進軍してくるナポレオンにたいして、共感を抱いていたようである。
(引用)のちに、ゲーテは1808年10月、ナポレオンに謁見する。「そこに人間がいる」と看破した。一方皇帝は、みずから『ウェルテル』の愛読者であることを告白する。この会見でゲーテはナポレオンへの心底からの讃仰を確信する。「わたしの皇帝」とよぶことをはばからない。皇帝的なもの(エロイカ)の崇拝者の列に加わったゲーテは、そこに正真正銘の天才を発見したのである。<樺山『同上書』p.55>
 フィヒテはその前年、「ドイツ国民に告ぐ」をイエナ大学の学生に熱く語っていた。プロイセンではシュタインとハルデンベルクの改革が始まった。そしてゲーテよりは一世代若いベートーヴェンもその嵐を回避することは出来なかった。第九シンフォニーの第4楽章でシラーの長詩「歓喜に寄す」を合唱曲に仕立てた。

『ファウスト』などを発表

 1794年からはヴァイマールでシラーとの交流が始まり、いよいよ文学活動を本格化させ、以下、『ヴィルヘルム=マイスターの修業時代』では教養小説として、『ヘウマンとドローテア』は叙事詩として、ドイツ古典主義(文学)の傑作とされる作品を発表した。晩年は、自伝的な『詩と真実』、『イタリア紀行』を書き継ぎながら、『ヴィルヘルム=マイスターの遍歴時代』で『修業時代』に続く時代を大河的に描き、『ファウスト』(第一部は1808年、第二部は1831年に発表)では壮大なスケールで人間世界を描いた。臨終に際して「・・・もっと光を」とつぶやいたという。
印 刷
印刷画面へ
AMAZON 書籍案内

ゲーテ/竹山道雄訳
『若きウェルテルの悩み』
岩波文庫 1978

ゲーテ/森鴎外訳
『フアウスト』
第一部第二部一括
岩波文庫 2026

翻訳には高橋義孝(新潮文庫)、手塚富雄(中公文庫)、相良守峯(岩波文庫)、池内紀(集英社文庫)、柴田翔(講談社文芸文庫)、など多数あります。

樺山紘一
『《英雄》の世紀 ベートーヴェンと近代の創成者たち』
講談社学術文庫 2020