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オゾン層破壊/モントリオール議定書

地球を覆い紫外線を吸収するオゾン層が、フロンによって破壊されることで、健康被害が発生する環境問題。1980年代からフロン全廃の取り組みが進み、1987年にモントリオール議定書で先進国は代替フロンを2020年までに全廃することで合意が成立した。現在は代替フロンに置き換えられているが、地球温暖化に有害であることが判明しその削減も課題となっている。

 現在の環境問題のひとつにオゾン層の破壊がある。オゾン層は、地表面から12~50kmの成層圏で地球を包み、有毒な紫外線を吸収する働きがある。オゾン層が破壊されると、紫外線の増加により、皮膚ガン・白内障や植物の生育障害が発生する。実際、南極上空のオゾンホールの発生によってオーストラリアなどで被害が出て問題とされるようになった。
  • 原因:1970年代から、冷蔵庫・クーラーなどの冷媒、半導体の洗浄剤、スプレーの噴射剤などに使用されているフロンガスがオゾン層を破壊する物質であることがわかった。
  • 対策:1985年のウィーン条約でフロンガスの削減が決められ、さらに1987年のモントリオール議定書によって削減から全廃に向けての目標が設定された。

モントリオール議定書

 オゾン層を保護するため、フロンガスの原料フロン(フッ素と炭素の化合物であるフルオロカーボン)の全廃を目指すモントリオール議定書は1987年にカナダのモントリオールで開催された国際会議で採択され、1989年に発効した。この議定書により、特定フロンなどオゾン層破壊につながる物質は、先進国では1996年まで、開発途上国は2015年までに全廃するという目標が設定された。その後、毎年、議定書の締約国会議が開催され、何度かの改訂がなされて段階的に規制が強化され、先進国は2020年までに、開発途上国は原則的に2030年までに全廃(当初は2040年とされたが10年前倒しとなった)することで合意された。
 その間、特定フロンの代わりとなる「代替フロン」に置き換えられていったが、代替フロン自身が、二酸化炭素よりも温室効果ガスとしての働きが強く、地球温暖化の原因の一つになっていることが明らかになってきた。そのため、2016年にルワンダのキガリで開催された会議において、代替フロンについても段階的に規制強化が図られることとなった(キガリ改正)。

代替フロンの問題

 1987年のモントリオール議定書で全廃されることとなったフロンは「特定フロン」(CFC)であり、先進国では目標通り1995年末までに生産全廃となった。 こうした対策の結果、1990年頃まで増加傾向にあった特定フロンの下層大気中濃度は北半球中緯度では減少に転じてきているとの報告もある。
 ところが一方で地球温暖化もあって、人々の生活の中で冷蔵庫やクーラー(他に機械の洗浄や各種の噴霧器)は無くてはならないものとなっており、特定フロンに代わる冷媒は不可欠だった。特定フロンの代わりとなり、同等の性質を持ち、かつオゾン層の破壊能力が低い、またはまったくないものとして開発されたのがハイドロフルオロカーボン(HCFC)などで、これらがいわゆる代替フロンである。その後生産されるようになった冷蔵庫やクーラーでは代替フロンが使われるようになった。ところが代替フロンは上述の通りオゾン層破壊の防止にはなるが地球温暖化防止にはかえってマイナスになることが明らかになった。代替フロンは二酸化炭素の約1万倍の温室効果があるというデータもあり、京都議定書に定める地球温暖化要因物質に該当するとされるようになった。そのため、2016年のキガリで開催されたモントリオール議定書締結国会議では代替フロンの規制について話し合われることとなった。
モントリオール議定書キガリ改正 キガリ改正では、代替フロンについて、先進国は2036年までに85%を段階的に削減すること(発展途上国はおおよそ2045年までに80%削減)で合意された。日本では1988年に「オゾン層保護法」を制定し、フロン類の生産および輸入の規制を行っていたが、キガリ改正については2018年12月18日に批准(65番目の批准国)し、2019年1月1日に発効した。
 日本の「オゾン層保護法」では、生産と輸出はしないが、差し引きでゼロになる範囲なら輸入はするとなっていて、代替フロンを全廃するとはなっていない。それとは別に「フロン排出抑制法」があり、ここでいうフロンとは代替フロンのことで、使用済みの機器から放出されないように回収を義務づけている。どちらかというと、生産抑制より回収徹底に力を入れている。<環境省・通商産業省フロン排出抑制法ポータルサイト

Episode 2020年にフロンが使えなくなる?

 モントリオール議定書でフロンを2020年までに全廃するとされていることは日本でも知られていたので、近づくにつれて、「環境省・通産省の指示により、お宅の冷蔵庫・クーラーのフロンガスを点検、交換する必要があります」と業者を装って訪問し、法外な代金を請求する詐欺が現れた。それに対して環境省は、今使われているフロンは正式にR-22などのHCFC(ハイドロフルオロカーボン)といわれるもので、「現在使用されているエアコンや冷凍冷蔵機器のフロン類を、フロン類以外のものに入れ替えるよう規定しているものではありません。」と説明し、詐欺の被害に遭わないように呼びかけている。<環境省ホームページ
 つまり、環境省の説明では現在の冷凍、冷房などに使われているフロンは「代替フロン」であり、2020年までの全廃対象になっていた特定フロンではない、今すぐ使えなくなるわけではなく、入れ替える必要は無い、ということである。モントリオール議定書に定める特定フロンの全廃は終わっており、現在はキガリ改正による代替フロンの削減に取り組んでいる、ということであろう。しかし、地球温暖化もあって、今やエアコンも冷蔵庫も余りにも当たり前になってしまっており、代替フロンの削減は容易ではなさそうだ。当初のモントリオール議定書に定められた特定フロン全廃期限の2020年は、コロナ禍の騒ぎの中で過ぎて行ったが、現在のフロン問題とは「代替フロン」のそのまた代替になる新たな冷媒が必要となっていることであり、その開発とそれを使う機器、つまり「ノンフロン機器」を開発することが急がれている。まだまだ環境悪化を防止し、環境を良くするという分野では、プラスチックゴミの問題も含めて技術革新は必要なようだ。<2021/1/12記>
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