莫氏
1527年、ベトナム黎朝の王位を奪い、実権を握った武将。
16世紀に入り、ベトナム(大越国)の黎朝の皇帝の乱脈な政治が続く中で台頭した軍総司令官の莫登庸(マック=ダン=ズン)が、1527年に皇帝を自殺に追い込み、自ら即位した。これによって黎朝は一時中断された。しかし黎朝の残党が明に莫氏の簒奪を訴え、その支援を要請すると、恐れた莫氏は明に国土の一部を献上して、自らはその藩王となることを申し出、明はそれを許した。しかし明はベトナムに出兵する力はすでに無く、ベトナムの混乱は続いた。黎朝の旧臣の鄭氏と阮氏は1532年に黎朝の血筋の黎荘宗を即位させ、莫氏と戦闘を続け、1592年に莫氏軍を破り、黎朝を復活させた。莫氏政権は65年間で終わった。莫氏は17世紀に明の支援を受けて地方政権として復活したが、1677年に滅亡した。 → ベトナム(4)
Episode 相撲取りから帝位を奪う
この莫氏は、「中国南部の沿岸地帯で水上で生活し漁業を営む蜑民(たんみん)の出身といわれ、こどものころから漁業に従事し、成人するにつれ相撲取りとなった人物だが、この人くらい評判の悪い人はいない。隠謀家で徒党を組み、権力をほしいままにして遂に国王も殺してしまい、自ら帝王となったというのである。・・・マック=ダン=ズンは1527年、統元帝に迫って皇帝の位を譲らせ、皇太后と統元帝を幽閉して自殺に追い込んだ。皇太后は“マック=ダン=ズンは臣下でありながら帝位を奪い、われら母子を殺そうとしている。他日、かれの子孫もまたこのように死ぬであろう”と言い残し、統元帝とともに自刃した。」<小倉貞男『物語ヴェトナムの歴史』1997 中公新書 p.172>