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国際労働機関/ILO/フィラデルフィア宣言

ヴェルサイユ条約で設立された国際連盟の外部機関として発足し、国際連合に継承され、その最初の専門機関となった。1969年にノーベル平和賞を受賞した。

 International Labour Organization 略称ILO。各国の労働者の労働状況を改善するために設けられた国際組織で、1919年のヴェルサイユ条約の第13項に基づいて国際連盟の外部機関として設立された。本部は当時からスイスのジュネーヴに置かれた。第二次世界大戦後は、国際連合の最初の専門機関となった。総会は各加盟国が政府代表2名と使用者代表1、労働者代表1の計4名の代表で構成する。
 国際的な労働基準としてILO条約を締結し、また労働条件改善のためにILO勧告を行う。ILOはその条約と勧告の実施状況を監視する。ILO条約は、批准すればその拘束を受けるが、勧告は拘束力はない。ILOは1969年、創立50周年を記念して、ノーベル平和賞を授けられた。その趣旨は、国連組織のなかでももっとも古い機関として、半世紀にわたり、国際的・国内的な紛争の原因と取り組み、平和へ貢献しようと努力してきたということであった。

フィラデルフィア宣言

 第2次世界大戦中の1944年5月10日、国際労働機関(ILO)は、下記のフィラデルフィア宣言として知られる宣言を採択し、戦後の労働紛争の解決にあたる根本原則とすることを明らかにした。
  1. 労働は、商品ではない。
  2. 表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。
  3. 一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
  4. 欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、且つ、労働者及び使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によって、遂行することを要する。
 この宣言は現在の日本の、ブラック企業の横行、派遣労働の増加、貧困の深刻化、表現と結社の自由の危機、そして労働組合の弱体化という直面する状況を考える際に、忘れてはならない原則であろう。この宣言の存在は、2015年12月のある集会での東海林智(とうかいりんさとし)さんの講演で知った。私だけでなく多くの人も知らないのではないだろうか。東海林智さんは毎日新聞の記者で新聞労連の委員長を務めた人。彼が現代の若者の労働事情をルポした『15歳からの労働組合』には次のような1節があった。
(引用)安倍政権の規制改革や産業競争力会議の議論で、「余剰在庫」「価格調整」などの言葉がひんぱんに出てくる。過剰に人がいることをなぜ「在庫」というのか、賃金を抑えてきたことをなぜ「価格調整」というのか。これらの言葉は、会議の「本音」を雄弁に語っている。働くことを徹底的に「モノ」扱いしたいのだ。・・・「労働は商品ではない」。1944年のILO(国際労働機関)のフィラデルフィア宣言を思わずにはいられない。<東海林智『15歳からの労働組合入門』2013 毎日新聞社>
 なお、東海林さんには『貧困の現場』(2013 毎日新聞社)の著作もある。

アメリカのILO脱退と復帰

 アメリカ合衆国は、1977年から1980年の間、ILOから脱退した。理由は、(1)各国代表は政府代表2、使用者側代表1、労働者側1という比率であるのに、ソ連・東欧諸国はすべて政府代表になっていること、(2)人権侵害への対応が国によって異なりイスラエルなどアメリカの同盟国に対して厳しいこと、(3)政治化が進行しており、労働問題以外の議題が取り上げられていること、などであった。またソ連国民が事務局長になったこと、パレスチナ解放機構(PLO)代表を参加させたことなどが背景にあった。その後、アメリカはILOに機構の改善があったとして、1980年に復帰したが、その後も1984年からはユネスコを脱退した。後の2000年代に安全保障分野で強まるアメリカのユニラテラリズム(単独行動主義)につながる動きであった。<最上敏樹『国連とアメリカ』2005 岩波新書 p.165->

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書籍案内

東海林智
『15歳からの労働組合入門』
2013 毎日新聞社

単なる労働組合法解説ではなく、ブラック企業や派遣法など、現代の若者を取りまく労働環境の問題の鋭いルポルタージュである。