ギルガメッシュ叙事詩
シュメール人の英雄叙事詩でメソポタミア文明の代表的文学。『旧約聖書』に先立つ「大洪水」が見られ、世界最古の物語とされている。
シュメール人の叙事詩
シュメール人が残した英雄叙事詩(神話)。ウルク第1王朝時代の実在の王ギルガメシュを主人公に、シュメール語で物語られていた伝承が、その後のメソポタミアのバビロニア、アッシリア、ヒッタイトなどの諸民族のことばに翻訳され、楔形文字で粘土板に書かれたものが残されている。人類最古の物語であり、メソポタミア文明を代表する文学であるが、特にこの中に『旧約聖書』の大洪水(ノアの箱船)の話の原型が含まれていることが判明し、キリスト教世界に衝撃を与えた。ギルガメシュ叙事詩のあらすじ
主人公ギルガメシュはウルクの王。英雄であると共に暴君であり、都の乙女たちを奪い去るという悪業で住民に恐れられていた。ウルクの人びとが神々に訴えると、大地の女神アルルは粘土からエンキドゥという野獣のような猛者を造り上げた。ギルガメシュとエンキドゥは長い間取っ組み合った末、互いに相手の力を認め、抱き合う。ここに二英雄の友情が生まれた。二人は連れだって遠くの森に住む恐ろしい森番フンババを倒した。ウルクに帰ると女神イシュタルがギルガメシュの英姿に魅せられて誘惑する。ギルガメシュがその誘いを断ると、怒ったイシュタルは天の神アヌに強要して、天の牛を送ってウルクを滅ぼそうとする。ギルガメシュとエンキドゥは今度も力を合わせて戦い、天の牛に打ち勝つことができた。しかし神々はエンキドゥにフンババと天の牛を殺した償いに死を宣告、エンキドゥはギルガメシュに見守られて息を引き取る。残されたギルガメシュは永遠の生命を求め、古都シュルッパクの聖王ウトナピシュティムのみが不死でいることを知り、彼を訪ねて旅に出る。苦難の末に尋ね当てたウトナピシュティムは「大洪水」が起こり、四角い船を作って危機から逃れたことを物語る。最後にギルガメシュに、海底にある永遠の若さを保つ植物のことを教える。ギルガメシュは海に潜ってその植物をとり、喜び勇んでウルクへの帰途につくが、とある泉でホコリを落とそうと水浴びしている間に蛇がやって来てその植物を食べてしまった。失望したギルガメシュは疲れ切ってウルクにたどりつき、その後はどのようにくらしたことだろうか。<矢島文夫『ギルガメッシュ叙事詩』1998 ちくま学芸文庫 p.13-16>Episode 『旧約聖書』よりも古い世界最古の物語
大洪水の記述のある『ギルガメシュ叙事詩』
第11の粘土板
矢島文夫『ギルガメシュ叙事詩』p.143
大洪水の伝承
(引用)聖書を日常生活の糧として、「創世記」に記された大洪水とノアの箱舟の物語が常識となっている西欧の人たちにとって、アッシリア版の「大洪水」物語の発見がセンセーショナルな出来事であったのは当然である。聖書の世界がそれほど常識化していないわれわれにとってさえ、このような劇的なストーリーと同じものが一度は忘れられた文字で書かれた遠古の書板から現われ出たということは驚くべきことと思われ、古代研究の意義を再認識させる。<矢島文夫『ギルガメッシュ叙事詩』1998 ちくま学芸文庫 p.176>『旧約聖書』では「大洪水」とノアの箱舟の話は「創世記」6・5~9・17までに述べられている。大洪水の考古学的証拠としては、シュルッパク(現在のファラ)、ウルク(現在のワルカ)、およびニネヴェなどで、洪水によってできたと考えられる沖積世地層が発見されている。しかし、時期的には一致していない。これらの事実から推定されることは、下メソポタミア全体にわたるほどではなく局地的であったであろうが、ある時期にかなり大きな洪水があったことはたしかで、その記憶が長く伝承に残されたのであろう。<矢島文夫『ギルガメッシュ叙事詩』1998 ちくま学芸文庫 p.178,182>