コプト教会はエジプトのキリスト教徒のこと。コプトとはエジプト人を指すギリシア語（アイギュプトス）のアラビア語なまりである。紀元１世紀に始まり、２世紀ごろからローマ支配下のエジプトで広がったキリスト単性説を信仰する人々である。東ローマ帝国の時代になり、４５１年のカルケドン公会議が開催され、単性説は異端であると退けられたが、エジプトでは信仰が守られた。またエチオピアに成立したアクスム王国でもコプト教会が受容された。
　コプト語には古代エジプト語が、その文字にはギリシア文字が用いられていた。１８２２年にロゼッタ＝ストーンを使って古代エジプトの文字神聖文字（ヒエログリフ）を解読したフランス人シャンポリオンは、コプト語を研究し、理解していた。

イスラーム教徒による迫害

　６４１年、イスラーム勢力がエジプト征服を行うと、コプト教会信者の中には徴税吏や書記として用いられる者もいたが、多くはイスラームに改宗していった。それでも現在のエジプトの人口の１０％程度がコプト派キリスト教徒として存続し、カイロにはその総本山がある。近代ではイギリスの植民地支配に協力することが多かったので、イスラーム過激派から敵視されることがあり、ときどき衝突事件も起きている。

Episode　豚インフルエンザとコプト教徒

　２００９年５月、新型インフルエンザが世界的に猛威を振るい、豚から人への感染が騒がれたとき、エジプト政府は国内で飼育されている豚約３５万頭の豚の全頭処分に着手した。ところが、それに対して、養豚業を手がけてきたキリスト教系コプト教徒が強く反発し、カイロなどで抗議行動が激しくなった。豚を「不浄な動物」とみなす多数派のイスラーム教徒との宗教上の軋轢が高まったという。カイロのある地区では約３万５千人のコプト教徒が、ごみ処理と養豚で生計を立てており、６万頭の豚が飼育されているが、５月３日にはこの地区でも機動隊に守られた保健当局が豚を処分しようとして騒ぎとなった。まだ患者が出ていないのに、政府が予防措置として豚の処分を開始したのは、世論の後押しがあるからで、イスラーム教徒の多数派は「イスラーム国家のエジプトで豚を飼うべきでない」と政府を支持しているという。＜朝日新聞　2009.5.10　朝刊＞

NewS　コプト教法王の訴え

　エジプトのキリスト教コプト教会の最高指導者である法王タワドロス２世は、コプト教徒を狙った爆破テロが相次いでいることについて、「エジプト国民の分断を狙ったもので、国家を傷つける」と訴えている。タワドロス２世は７世紀にイスラム教徒がエジプトに進出してから、１４００年間にわたって両者は良好な関係を保ってきたにもかかわらず、近年は少数派のコプト教徒の平等な権利が保障されていないと指摘している。１１年からコプト教徒を狙ったテロが、過激派組織イスラーム国（ＩＳ）の前身組織によって実行されるようになり、１６年にはＩＳによるコプト教会を狙った大規模なテロが続きカイロ、アレクサンドリアなどで計70人が死亡した。それ以外にもコプト教会と教徒はたびたび襲撃されている。コプト教会は14年に成立したシーシ大統領支持者が多いため、ＩＳの標的になったという。タウドロス２世は2017年８月末に来日し、京都で昨年開設されたコプト教会で儀礼を執り行う予定である。＜朝日新聞　2017.3.17　朝刊＞
　コプト教会に法王がいたこと、コプト教会が京都にできたことは驚きました。同記事のキーワード解説には、現在もエジプト全人口約9200万の10～15％程度を占めるとみられ、古代エジプト暦を起源とする独自のコプト暦を持っているという。

参考　コプト教徒の国連事務総長

　第６代の国際連合事務総長（任期1992～1996）を務めた、ブトルス＝ブトルス＝ガーリー（1922～2016）（日本ではブトロス＝ガリと表記されることが多かった）は、エジプト出身の弁護士、国際法学者であった。エジプトはイスラーム教徒が多数を占めているが、彼はエジプト人だがイスラーム教徒ではなく、キリスト教徒である。より正確にいえば、西アジアに古くから伝わるキリスト教の一派であるコプト・オーソドックス（コプト教）の信者である。彼の名のブトルスはイエスの十二使徒の筆頭ペトロのアラビア語なまりである。
　エジプトの国語はアラビア語であるが、彼が自分たちの神を呼ぶときはなんと呼ぶのだろうか。やはりアッラーと呼ぶのである。なぜならアッラーとは唯一絶対神という意味に過ぎないからである。＜東長靖『イスラームのとらえ方』1996　世界史リブレット15　山川出版社　p.11＞