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マルサス

18~19世紀初頭のイギリスの古典派経済学者。『人口論』を著し、人口増加が貧困の要因となると論じ、人口抑制を説いた。

 Thomas Robert Malthus 1766-1834 イギリスの古典派経済学の一人(1766~1834)。イギリス国教会の牧師であったマルサスは、産業革命(第1次)期の人口増加に直面してその動向を分析し、1798年に『人口論』を発表し、「人口は幾何級数的に増加するが、食糧は算術級数的にしか増加しない」という命題を打ち出した。
 人口増加がこのまま進めば、イギリス社会の貧困が深刻になると危機感を持ち、人口抑制の必要を説いた。マルサスは牧師らしく、人々に自己の性的欲望を抑えて結婚年齢を遅らせることを訴え、イギリスの将来に不安の影を投げかけた。このような思想は「マルサス主義」とも言われ、産児制限などが始まった。
 しかし、イギリス経済は19世紀を通じて加速度的な成長を遂げ、その工業化のおかげで、その間の3.5倍に増加した人口をみごとに支えることができた。ただし、アイルランドでは1840年代にジャガイモ飢饉が起き、イギリスによって半植民地されたこともあって工業化が遅れ、貧困が続いた。<村岡健次『世界の歴史』22 1999 中央公論社 p.348>

「マルサスの罠」

 マルサスが説いた、人口増加は食糧生産の増加を上回るため、人々は窮乏化をさけるためさまざまな方法で人口増大を抑制するようになるという説は「マルサスの罠」と言われている。人口増大と経済成長が同時にできなかったのは、自然環境が制約条件となっていたからであった。1800年以前は、あらゆる社会がほとんどの資源を土地に依存しており、その環境的要因によって世界経済は長い間本質的に変わらず、急速な成長をとげることがなかった。ところが、産業革命の過程で、1800年を境として起こったエネルギー革命によってこの制約が除去され、人口の増大と経済成長は調和的に進行することが可能となった。このような「マルサスの罠」からの解放を可能にしたエネルギー革命こそ、産業革命のもたらした最大の変化であるという産業革命の再評価が近年、支持を受けている。<長谷川貴彦『産業革命』2012 世界史リブレット 山川出版社 p.3-4、p.55~62>
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