詳説世界史 準拠ノート(最新版)
第10章 近代ヨーロッパ・アメリカ世界の成立
1節 産業革命
■ポイント 産業革命はどのような意味で世界史の画期とされるか、その意味と時期、地域の広がりを理解する。
1.a 産業革命 とは:
- b 18世紀後半のイギリスに始まった、工業生産技術の革新に伴って起こった経済的・社会的な変化 。
= 生産の様式が手工業からc 機械制工業 に変わり、d 資本主義社会 を確立させた。 - 並行して、アメリカ独立革命とフランス革命という市民革命がおこったe 二重革命 の時代であった。
2.イギリス産業革命の条件
- 16世紀以降の商工業(特にa 毛織物工業 )の発達によってb 資本 の蓄積が進んでいた。
- 17世紀以降の国家のc 重商主義政策 の展開。
→ 17世紀後半のd オランダ との抗争、18世紀以降のe フランス との抗争に勝利をしめる。
→ 北アメリカ大陸・インドなど、広大な植民地=f 海外市場 の確保。
→ 18世紀からg 三角貿易 でのh 黒人奴隷貿易 での利益を蓄積が進む。 - 18世紀に大地主によるi 第2次囲い込み(エンクロージャー) が進行。
→ 大地主は中小農民や村の共同地をあわせて大規模な農場経営を始める。
= j 都市人口の増加に対応した穀物の増産を目的とし、議会の承認のもと進展した。 - 土地を失った農民はk 賃金労働者 として大農場か、都市に流入。 → l 労働力の蓄積 が進む。
- 産業革命と並行してm 農業革命 が起こる。= n 資本主義的な農場経営 が始まった。
▲背景となった18世紀のイギリスの農業技術の革新
= 従来のo 三圃制 にかわりp ノーフォーク農法 (四輪作法)が普及した。
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3.イギリス産業革命の背景- a 石炭 とb 鉄鉱石 などの資源が豊富であったこと。
- 17世紀以降のc 科学革命 による自然科学と技術の進歩があったこと。
- d イギリス革命 によって議会政治が成立していたこと。
▲イギリス資本主義の発達をになったe ジェントルマン が、議会で一定の発言権を有していた。
- 産業革命は、「革命」といわれるような急激な変化をもたらしたものではなかったという見方が出されている。
= イギリスの国民生産の年成長率は、1780~1801年でも1.3%程度であったという指摘がある。 - 産業革命は1760年代にイギリスで自生的に起こりただちに変化をもたらした、という見方は修正された。
a 1780年代に本格化し、19世紀初頭まで長期的に続き、農業社会から産業社会へと転換させ、工業地域と植民地の従属という世界の構造と、現代の環境問題につながる世界史の転換となった「革命」であった。
解説
イギリス産業革命の技術革新が突如として始まったのではなく、綿織物や石炭の需要の高まりがあって、それに応えようとして始まったことを理解すること。また、産業革命の時期については、最近では蒸気機関の利用というエネルギー革命を重視し、1780~1800年ごろを分水嶺として農業社会から産業社会に転換し、人口急増がもたらされたとするとする見解が有力になっている。
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イ.機械の発明と交通機関の改良
■ポイント 技術革新はどのような需要の高まりに応じて達成されたか、需要と供給の関係を知る。
1.綿工業での技術革新A 綿織物 の需要増大。
- 17世紀末、東インド会社を通じa インド産綿布 (キャラコ)の輸入が増加。
解説
キャラコとはインド産の綿布のことで、カリカットのなまったことば。1690年頃から東インド会社によって安価で吸湿性の良いキャラコの輸入が増大し、打撃を受けたイギリスの毛織物業者がその輸入の禁止を求め「キャラコ論争」がおきた。1700年にはキャラコ輸入禁止法、さらに1720年にはキャラコ使用禁止法まで制定されたが、消費者はインド産綿布を好んだため効果がなく、かえって国内に綿織物業が勃興し、産業革命と共に毛織物産業は急速に衰退した。→ 従来のb 毛織物 の需要が減る。毛織物業者が反発するも、需要さらに高まる。 - イングランド中西部のc マンチェスター 中心に手工業によるd 綿織物(綿布) 生産が始まる。
→ 原料のe 綿花 は当初、西インド諸島から、f 三角貿易 によって運ばれた。 - d 綿織物 の需要がさらに高まり、技術改良が必要となる。
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B 織機 (織物機械)の発明。
解説
杼(ひ)は綿織機で横糸の先につける道具。それまでは棒でいちいち左右に渡していたが、ケイの飛び杼はバネの力で飛ばすことによって作業を効率化した。織機の機械化の発端となったが、しかし動力はまだ人力である。
- 1733年 a ジョン=ケイ :b 飛び杼 を発明。
→ c 綿織物 の生産量増え、材料の綿糸が不足する。
C-b 多軸(ジェニー)紡績機
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C 紡績機械 の発明。
- 1764年頃 a ハーグリーヴズ :b 多軸(ジェニー)紡績機 。
→ 多量の綿糸を同時に紡ぐ。まだ強さの不足があった。 - 1769年 c アークライト :d 水力紡績機 を発明。
→ 河川の側に立地し、水量に左右され、操業が安定しなかった。 - 1779年 e クロンプトン :f ミュール紡績機 を発明。
C-f ミュール紡績機
解説
ミュールとは雄ロバと雌馬との雑種(ラバ)のことで、これがジェニー紡績機と水力紡績機の両方の機能を採り入れて作られたことから名付けられた。それまでの紡績機が、太さがまちまちで切れやすかった欠点を克服した。当初は水力で動かされたが、1789年に蒸気機関が導入され、ミュール紡績機を備えた大工場で綿糸が大量にが作られるようになり、それが織機の改良を促した。→ 均一な強さの綿糸の大量生産が可能になった。
→ 1789年に蒸気機関で動かされるようになる。
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D 織機 の改良。
- 1785年 a カートライト :b 力織機 を発明。
- 1787年 初めてD 蒸気力 を利用。
→ 綿布の大量生産が可能に。
解説
力織機は手で動かす織機という意味で、蒸気機関を利用したのではない。紡績技術の発達で強く長い綿糸が作られるようになったことを受けて改良された織機であったが、まもなく蒸気機関を動力とするようになり、大量の綿布を安定的に生産できるようになった。
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E 綿花 の不足解消。
- 1796年 アメリカのa ホイットニー :b 綿繰り機 を考案。綿花の種子除去を容易にする。
→ イギリスへの輸出増加しアメリカ南部のc 黒人奴隷制プランテーション による生産が急増。 - イギリスはさらにインドからE 綿花 を輸入するようになる。(新たな三角貿易の形成 後出)
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・不足する原料の供給と、飽和状態となった国内市場にかわる市場をd 植民地 に求めようになる。
A 蒸気機関の発明 はじめは炭鉱の排水用ポンプとして利用された。
- 16世紀イギリス 燃料としてa 石炭 が普及 → 炭坑の開発進む → 地下水に悩まされる。
- 18世紀初め b ニューコメン :炭坑の排水用に、蒸気力を利用したc 蒸気機関 を発明。
→ 十分な能力がなく、小規模な炭坑以外には普及しなかった。
a ワット B 蒸気機関
解説
ワットは、1769年に炭坑の地下水を汲み上げるために考案されたニューコメンの蒸気機関を改良し、効率をよくした。しかしまだ巨大であり、他産業では仕えなかったので、さらに改良を加え、84年にピストンの上下運動を円運動に変える装置を付加して紡績や織機工場でも使えるようにした。1800年ごろまでに広く使用されるようになり、石炭を燃料とするエネルギー革命をもたらした。
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B 蒸気機関の改良 利用効率を高める必要があった。
- 1769年 a ワット :B 蒸気機関 を改良し特許を取る。
- 1784年 ピストンの上下運動を円運動に変える工夫を実現。
→ 水力・畜力に代わり、b 石炭 を熱源とした動力が生まれた。 - 1780年代後半から、紡績機、織機にB 蒸気機関 の利用始まる。
- 1800年 オーウェン、ニューラナーク工場を創設。(後出)
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C▲ エネルギー革命 (第1次)が起こる。
= a 燃料としてそれまでの木炭に代わり、石炭が使用されるようになった。 → 環境破壊も始まる。
A 機械制大工場 の成立。
- 紡績、織布、動力の諸部門が結びつき、a 綿工業 がさらに盛んになる。
→ 資本家が多数の労働者を雇用し、A 機械制大工場 を建設、大量生産を行う。
=b 資本主義 の生産形態が一般化。
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B 重工業 への転換。
- 18世紀前半 a ダービー父子 :コークスを燃料とするb 製鉄法 を発明。
解説
鉄鉱石を溶解するにはそれまで木炭と一緒に燃やしていたが、そのため木炭の需要が高まり、イギリスの森林資源が枯渇しそうになった。その代わりの燃料が求められていたが、ダービー父がはじめて石炭を蒸して作ったコークスと一緒に鉄鉱石を溶解して純度の高い銑鉄を得ることに成功した。ダービーの子がそれを事業化し、製鉄事業を本格化させた。その製鉄所のあったコールブルックデールには、1779年に作られた世界最初の鉄橋が現存し、世界遺産となっている。→ c 機械工業 ・d 鉄工業 ・e 石炭業 なども飛躍的に発展。
- 1784年 ▲ヘンリ=コートがパドル法(反射炉法)による錬鉄製造法を発明。
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・19世紀には、交通機関の発達を促す。
・機械制工場の発達 → 原料、燃料(石炭)を工場に運び、製品を早く大量に市場に送る必要が出てくる。
A 運河 網の形成。
- 18世紀後半 国内輸送路としてa 運河 の建設が進む。(船は馬が引いていた。)
→ 鉄道普及までは、石炭などの主要な輸送手段とされる。「運河狂時代」と言われる。
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B 鉄道 の建設。
- 1804年 ▲a トレヴィシック :蒸気機関を利用しレール上を自走する(実用化されず)。
- 1814年 b スティーブンソン :実用的な蒸気機関車を試作。ロケット号を走らせる。
→ 1825年 c ストックトン・ダーリントン間 で初めて実用化。=d 石炭 輸送のため。 - 1830年 e リヴァプール・マンチェスター鉄道 最初の旅客輸送営業開始。
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C 蒸気船 の発達。
- 1807年 a フルトン :アメリカ人。初めて蒸気機関を船舶に利用することを考案。
→ 1819年 サバンナ号 大西洋横断成功。
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C 交通革命 の時代
- 19世紀初頭のa 鉄道 とb 蒸気船 の出現。
→ イギリスなど欧米諸国の植民地拡大と共に世界に広がっていく。
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c 19世紀中頃までに世界的な規模での資本主義社会が形成され、世界経済の一体化が進んだ。
A 18世紀末~19世紀初頭 = 二重革命の時代
- イギリスの産業革命 圧倒的な工業力を誇り、a 「世界の工場」 と言われるようになる。
- b ナポレオン 戦争後、イギリスは機械技術の輸出を解禁 → ヨーロッパ諸国に産業技術が波及。
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B 19世紀前半 = ナポレオン戦争後のウィーン体制時代
- a ベルギー 1830年独立 鉄・石炭資源が豊富。イギリス市場が近い。
- b フランス はじめ高関税政策とり、イギリスに対抗する。
→ c フランス革命 により自立した小農民が増え、工業労働力が不足、資本の蓄積も進まず。
解説
以下の部分は現在の教科書では編集上の都合か、カットされている。しかし、ドイツ、アメリカ、ロシア、日本といった後発国の産業革命のあり方と、産業革命が先進工業国によるアジアなどの地域の経済的従属をももたらしたことなどは重要なので、旧版の教科書の記述をもとにまとめておいた。
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C 19世紀後半 = ウィーン体制崩壊後、自由主義・国民主義の時代
- a ドイツ 国家的保護のもと重工業・化学工業が発展。
- b アメリカ c 南北戦争 後に、北部主導で工業化が進む。20世紀初頭、イギリスを追い越す。
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D 19世紀末 = 先行する資本主義国では帝国主義に移行し始める時期
- a ロシア ツァーリの支配のもと、b 農奴制 が残存。
- c 日本 明治政府の国家的な保護のもと、1894年のd 日清戦争 を期して工業化を推進。
→ 両国とも農村の後進性が残り、矛盾が強まる。 → 1904年のe 日露戦争 で衝突。
→ ロシアはf ロシア革命 の勃発へ、日本はg 軍国主義 へ傾斜。
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E a 世界市場 の形成
- 19世紀前半、産業革命を達成したイギリスは産業資本家のb 自由貿易主義 の要求強まる。
→ 1846年 c 穀物法 廃止、 49年 d 航海法 廃止などで転換を図る。(後出)
1854年 e 日本 の開国。= a 世界市場 が完成(地球を一周)したことを意味する。 - イギリスはf インド に対しては直接的植民地支配、g 中国 に対しては自由貿易を強要し、
アジアと本国を結ぶ新たなh 三角貿易 を展開するようになる。(後出) - フランス、ドイツ、アメリカはi 保護貿易主義 をとりイギリスに対抗しながら資本主義化を進める。
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・イギリスのb 自由貿易主義 によるa 世界市場 の形成は何をもたらしたか。
→ j アジア・アフリカ・ラテンアメリカは従属的地位に置かれることになった。
→ j アジア・アフリカ・ラテンアメリカは従属的地位に置かれることになった。
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ウ.資本主義体制の確立と社会問題の発生
■ポイント 産業革命はどのように社会を変化させ、問題を引き起こし現代につながっているか考察する。
1.資本主義経済の確立
- a 機械制工場 の生産 → 大量生産と大量消費の進行 → 家内工業、ギルド制手工業の衰退。
- b 産業資本家 の支配力が決定的となる。 = c 資本主義体制の確立
- 株式会社と金融機関 ロンドン王立(株式)取引所、d イングランド銀行 (1694設立)の活発化。
→ ロンドンの▲e シティ で国債や証券市場が形成され、世界金融の中心地となる。
解説
the City というのはロンドンの中心部の特定地域を言う。そこには、イングランド銀行、株式取引所などが集中しており、現在も世界金融の中心地の一つとして存在している。イギリスは、20世紀後半、国力ではかつての大英帝国の力はなくなったが、世界金融に占めるシティの位置は依然として確固たるものがあると言われている。
2.人口の都市集中
- a マンチェスター = イングランド中西部 ランカシャー地方の最大の綿工業都市。
- b バーミンガム = イングランド中部の鉄・石炭の産地、最大の製鉄・機械工業都市。
- c リヴァプール = 奴隷貿易で栄え、産業革命期にはマンチェスター製の綿製品の輸出港となる。
3.労働者階級の形成
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工場への賃金労働者の集中 → 資本による労働者搾取 → 労働者の団結、自覚が高まる。
資本家 =a 利潤追求のため低賃金、長時間労働を強制 ─┐
├→ 階級的対立
労働者 =b 高い賃金と労働時間の短縮を要求 ─┘
→ 労働者の階級意識がうまれる → 労働者の団結によるc 労働運動 が始まる。
→ d 労働組合 の結成。(11章1節参照)
- ▲イギリス政府の対応 c 労働運動 の取り締まりを強める。
1799年、1800年にe 団結禁止法 を制定 → 資本家と労働者の対立激化。
→ 1824年 廃止。さらに1871年のf 労働組合法 で合法化される。(11章1節参照)
4.労働問題・社会問題の発生
18世紀イギリスの炭鉱で働く女性
- 分業の発達 → a 女性・子供の労働 、
さらにb 長時間労働、低賃金労働 、
不衛生な環境 → 労働者の貧困の進行。
1802年 最初のc 工場法 制定
→ 労働者保護のための立法始まる。 - 一方で機械の普及によって手工業者が職を失う。
解説
産業革命での技術革新は、それまでの手工業の熟練工の仕事を奪った。彼らの怒りは機械打ち壊しとなって激化し、1810年ごろ最高潮に達した。ラダイトというのはその伝説上の指導者ラッドの名前に由来する。その怒りは次第に組織的な労働運動へと吸収されていった。1810年代 d 機械打ちこわし運動 (e ラダイト運動 )起こる。(後出)
- 労働者の組織的な権利要求運動が始まる。
解説
中世末期から職人たちは日曜日に遅くまで飲み、月曜日を Blue Monday と称して集団で休みをとる習慣があった。Blue には「聖なる」という意味もあったが、それは職人の親方に対する抵抗の手段でもあった。産業革命期になると、無権利であった職人や労働者は、この習慣を口実に月曜日に休んだり遅刻したりして資本家に対抗した。▲労働者は、f 聖月曜日 の習慣を口実に抵抗を続ける。
1819年 ▲g ピータールー事件 マンチェスターで労働者の集会を官憲が襲撃した事件。
→ 資本主義社会の矛盾と、労働問題の解決を目ざすh 社会主義思想 が生まれる。