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ネアンデルタール人/ホモ=ネアンデルターレンシス

ネアンデルタール博物館のネアンデルタール人
ネアンデルタール博物館の
ネアンデルタール人。
赤澤威『ネアンデルタール人の正体』
朝日選書より

約20万年前にヨーロッパで出現した化石人類。ドイツのネアンデル渓谷で発見された。4~3万年前まで生存し、ホモ=サピエンスとも共存したが、絶滅した。

 化石人類の中のでも最も早く、1856年、ドイツのネアンデル谷(谷をドイツ語でタールという)で発見され、その後ヨーロッパから西アジア各地に広く分布しており、最もよく知られた化石人類である。約20万年間に現れ、4~3万年前に絶滅したと考えられる。かつては旧人に属する人類とされていがたが、現在の化石人類学では、ホモ属に属すと考えられており、学名はホモ=ネアンデルターレンシスと言われるようになっている。

ネアンデルタール人の文化

  1. ネアンデルタール人は毛皮をまとい、洞窟に住み、石器を使い、狩猟採集生活を行っていた。
  2. 石器は打製石器である剥片石器の技術を使っている。これは、ルヴァロワ式石器ともいわれる旧石器文化が最も発達した形式である。
  3. ネアンデルタール人の遺跡からは、石器で肉を引き剥がしたり、たたき割られた人骨が出土する。これは彼らが食人を行っていた証拠とされる。一方で、明らかに埋葬された人骨が見つかっており、家族や部落の仲間の死を悼む心を持っていた。
  4. 頭蓋骨の内側の形で大脳皮質がどの程度発達しているかが判り、前頭葉が一定の大きさに達していたこと、喉や胸骨の構造も現代人とほとんど同じであることなどから、複雑な石器の製造や、狩猟での集団作業で言葉を使ったことは十分考えられる。しかし、抽象的、象徴的言語を用いることはなかっただろう。

ネアンデルタール人の絶滅

 ネアンデルタール人は3万年前頃までに絶滅し、現生人類(ホモ=サピエンス)への置換が行われたと考えられているが、最近の研究では両者はかなり長い時期にわたり併存関係にあったとされる。しかし両者の間に敵対関係や、逆に混血などの関係があったのかどうかについては諸説あるが、いまのところ不明である。(ネアンデルタール人がどこかに生存していると真面目に考えている学者もいる。)
ネアンデルタール人の最新知見 おそらくネアンデルタール人は、ホモ=ハイデルベルゲンシスがアフリカからヨーロッパ、中国まで分布を広げ、そのうちのヨーロッパの集団の一部から進化した。スペインのクエバ・マヨール洞窟では、約30万年前のハイデルベルゲンシスの化石が見つかっているが、眼窩上隆起が高いなどネアンデルタール人的特徴が見られ、その祖先かもしれない。約12万年前の温暖期に急増した、約7万年前の寒冷期に地中海岸に南下し、遺跡数も減少、約6万年前の温暖化で再び増加しヨーロッパ北部に広がった。しかし、4万8000年前の寒冷化で人口が減少し始め、4万7000年前にはホモ=サピエンスがヨーロッパに侵入してきたためか、約4万年前までには絶滅した(絶滅した時期は約3万年前とされていたが、年代測定の精度が高まり、現在では訂正されている)。
 ネアンデルタール人の特徴は脳容積が大きいことであり、ハイデルベルク人の1250ccを上回り、1550ccほどある。石器は天然樹脂を使って石器を枝の先に付けるようになり、25万年前からは槍として使い始めている。それによってゾウ(当時ヨーロッパにいた鼻のまっすぐなゾウ)を狩ることもあった。<更科功『絶滅の人類史―なぜ「私たち」は生き延びたか』2018 NHK出版新書 p.172-177>
ネアンデルタール人の弱点
(引用)ネアンデルタール人は私たちよりも骨格が頑丈で、がっしりした体格だった。ある研究では、ネアンデルタール人の基礎代謝量は、ホモ=サピエンスの1.2倍と見積もられている。基礎代謝量というのは、生きていくために最低限必要なエネルギー量のことで、だいたい寝ているときのエネルギーと考えればよい。つまりネアンデルタール人は、何もしないでゴロゴロしているだけで、ホモ=サピエンスの1.2倍の食料が必要なのだ。もしも狩猟の効率を両者で同じたとしたら、ネアンデルタール人はホモ=サピエンスより、1.2倍も長く狩りをしなければならなり。<更科功『絶滅の人類史―なぜ「私たち」は生き延びたか』2018 NHK出版新書 p.214>

発見の経緯

 ネアンデルタール人が洪積世の人類化石であると認められるのには45年かかった。1856年、ドイツの高校教師フールロットは、デュッセルドルフの近くのネアンデル渓谷で掘り出されたという古い人骨を、頭骨の形や脳の容積から見て原始時代の人類の骨であると確信し、「ノアの洪水で溺れ死んだ人」の骨だと学会で発表した。しかし大学教授たちは、「絶滅した特殊な人類の一種」であるとか、「ナポレオン戦争で戦死したコサック兵の遺骨」、「クル病にかかって変形した老人の骨」などとしてフールロットの説を認めなかった。ダーウィンの進化論が発表される1858年よりも前のことだった。フールロットは自説が認められないままこの世を去り、ようやく死後24年経った1901年、ドイツの解剖学者シュワルベによってネアンデルタール人が化石人骨であることが認められた。その後、同じような化石が多数発見され、「進化」の概念も導入されたからだった。

ホモ=サピエンスとの共存

 現在知られている人類進化の過程に関する学説で最も一般的なのは、アフリカに生まれたホモ=エレクトゥス(原人)が約60万年前に枝分かれしてハイデルベルク人が現れ、その一部が中東・ヨーロッパに広がってネアンデルタール人となった、というものである。また長い間、ネアンデルタール人はヨーロッパにおいてクロマニヨン人に進化したと考えられてきたが、人類学の進歩によってその見方は現在では否定されている。また1940年代にはネアンデルタール人を独立した種ではなく、ホモ=サピエンスの亜種であるとして、ホモ=サピエンス=ネアンデルターレンシスという学名が与えられたが、それも現在は否定されており使われなくなっている。現在では、現生人類つまりホモ=サピエンス(新人)もハイデルベルク人から枝分かれした系統から生まれ、ユーラシア各地に拡散し、その中から生まれたクロマニヨン人がネアンデルタール人と共存しながら次第にそれを駆逐し、ネアンデルタール人は3万年前ごろに滅亡した、と考えられている。ネアンデルタール人とクロマニヨン人が共存していたという興味深い遺跡が、イスラエルのカルメル山周辺でいくつも見つかっている(そのうちの一つのアムッド遺跡は日本隊が発掘した)。<奈良貴史『ネアンデルタール人類のなぞ』2003 岩波ジュニア新書/内村直之『われら以外の人類』2005 朝日選書 などによる>

Episode 新しいネアンデルタール人像

 ネアンデルタール人には凶暴な野人というイメージがつきまとっていた。最近になってそのような思いこみは訂正されつつある。イラクのシャニダール洞窟では家族生活を営み、仲間を手厚く葬っていたり、病人を介護していた様子がうかがわれる。また日本の人類学者赤澤威はシリアのデデリエ洞窟で発掘した子どもの人骨をもとに全身を復元し、彼らの心性に迫っている。アメリカのある学者は、「もしネアンデルタール人がわれわれと同じ格好をして隣に座っていても気がつかないだろう」といっているという。そんな考えで復元された人物が最初の化石の発見地に建てられたネアンデルタール博物館に展示されている(図)。<赤澤威編著『ネアンデルタール人の正体』朝日選書 2005 p.29-54>

ネアンデルタール人VSクロマニヨン人?

 ネアンデルタール人は原人段階の資質を多く引継ぎながら新たな特徴を身につけ、ヨーロッパを中心とした寒冷な気候に適応して生きてきた。しかし、われわれ現代人の先祖でありアフリカに生まれたホモ=サピエンスの一派であるクロマニヨン人が、後期旧石器の技術を身につけてヨーロッパにやってきた。ネアンデルタール人はクロマニヨン人とどのような交流があったか不明だが、次第にその居住地域を譲っていき、遅くとも2万7千年頃には地球上から姿を消した。現在のところ、最も新しいネアンデルタール人類の人骨はイベリア半島のサファイラ洞窟から見つかっているが、ジブラルタル海峡を越えた気配はない。一方、ヨーロッパの主役となったクロマニヨン人は狩猟技術を向上させ、洞窟絵画などの芸術性を伴う新たな文化を身につけて、人類の文明を形成していく。なぜこのような違いがでたのか? ネアンデルタール人はなぜ消滅したのか? これは現在でも大きな謎であり、さまざまな仮説が立てられている。クロマニヨン人と混血して吸収されたという説、クロマニヨン人との闘争で滅ぼされたとする説などがあるがいずれも証明されていない。

ネアンデルタール人の絶滅が教えること

 結局、ネアンデルタール人の絶滅した理由は謎であるが、大筋は長い時間の中で「食料を手に入れる技術の差などがちょっとした生存率の差を生み、それが次第に彼らの人口を減らしていったのではないか」<内村前掲書p.242>、あるいは寒冷条件に極限まで適応してきわめて小さな人口集団で暮らしていた彼らが、パワフルな現代人のパワーに呑み見込まれて消滅した<赤澤前掲書 p.85-86 第2章地球から消えた人々(片山一道)>、といったところであろう。また、「ある時期を境にして、持ち続けてきた古い形質と自分たちの形質とで飽和状態になり、新たに適応するのが困難になってしまったのではないか」<奈良 前掲書 p.162>という指摘もある。それではわれわれ現代人はどうだろうか?
 文明を極端に発達させたわれわれは、さて電気が使えない、携帯が使えないとなったとき、果たして生き延びることができる力を持っているのだろうか。2011年の東日本大震災での津波、原発事故、停電という事態の中で、かつて地球上から姿を消した「人類」がいたことは何らかの示唆になると思われる。
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ノートの参照
序章1節 ア.人類の進化
書籍案内

奈良貴史
『ネアンデルタール人類のなぞ』
2003 岩波ジュニア新書

内村直之
『われら以外の人類』
朝日選書 2005年

赤澤威編著
『ネアンデルタール人の正体』
朝日選書 2005

更科功
『絶滅の人類史―なぜ「私たち」は生き延びたか』
2018 NHK出版新書