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太陽の沈まぬ国

16世紀後半、フェリペ2世の時代に世界各地に領土を持つ大帝国となったスペイン王国のこと。

太陽が沈まない、とは自転する地球で、その国の領土のどこかが常に太陽に照らされている、ということである。地球の裏側まで領土を持っているということなので、そのような例は16世紀後半のスペインしかない。
 スペインは15世紀末までにレコンキスタによってピレネーからジブラルタルまでのイベリア半島の大半を支配し、さらにコロンブスアメリカ大陸発見を契機に広大な海外領土を獲得することとなった。当初は先行していたポルトガルとの間でトルデシリャス条約などの植民地分割をおこない、世界を二分した。またヨーロッパ大陸ではハプスブルク家がスペイン王位を継承したので、その領土はイベリア半島に加えて、ネーデルラント、イタリア、ドイツ、オーストリアなどに点在する大帝国となった。カルロス1世(神聖ローマ皇帝カール5世)の時代の1520年代のマゼランの世界周航を機に、東回りでアジアに進出してフィリピンを獲得し、さらに新大陸ではコルテスとピサロに代表される征服者がラテンアメリカ植民地をインディオを殺害し、その文明を破壊することによって成立させた。
 スペインが「太陽の沈まぬ国」となったのは、1580年にポルトガル王統が断絶した機会にフェリペ2世がその王位を兼ね、ポルトガルを併合したためである。これによってイベリア半島全域を支配し、ポルトガルが勢力を伸ばしていたアフリカ沿岸部、さらにインドのゴアなどをその領土に加えることになり、文字どおり「太陽の沈まない国」となったのである。これはスペイン王国の絶対王政の全盛期を意味していた。
 しかし、この広大な領土からもたらされる金銀などの資源は、スペイン王室の贅沢に浪費されるか、スペインを素通りしてヨーロッパ各地の商業都市に拡散していくかのいずれかであり、国民の富として蓄積されることはなかった。国内産業の保護育成を怠ったスペインはやがて国力を次第に失い、広大な海外領土を維持することが困難になっていく。またネーデルラント連邦共和国が独立し、ポルトガルも1640年に独立を回復したため、17世紀からはスペインの衰退は明らかになっていく。スペインに代わってイギリスとオランダ、さらにフランスが、東インド会社や西インド会社という特許会社を通じて海外市場を獲得していくという方式に移行して行く。18世紀にはイギリスとの抗争、19世紀にはいるとラテンアメリカでの独立達成などでスペインも「太陽の沈む」国に転化していく。  
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