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北米自由貿易協定/NAFTA

北米自由貿易協定(NAFTA)は1994年に発効したアメリカ・カナダ・メキシコの自由貿易圏とする協定。メキシコでは強い反発が生じた。トランプ政権は大幅に改訂し、三国で新たな貿易協定を作ることを表明、2018年に合意が成立し、2020年7月、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が発効した。

 アメリカ合衆国・カナダ・メキシコの三国が、関税障壁を廃止して自由貿易圏を形成する協定。NAFTA(North American Free Trade Ageement)。1992年、アメリカ大統領ブッシュ(父)の時に調印されたが、アメリカ国内ではメキシコの安価な労働力の流入をおそれた労働組合が反対したため、議会の承認が得られないでいた。次の民主党のクリントンが共和党の支持をとりつけ、ようやく議会の承認を得て、1994年1月1日に発効した。しかし、大きな問題となったのはメキシコにおいてであった。

反グローバリズムの動き

 1994年1月1日、北米自由貿易協定(NAFTA)が発効した日、メキシコ南部のチアパス州で、武装ゲリラ集団が蜂起し、解放区を作るという出来事が起き、世界を驚かせた。この武装集団は、サパティスタ解放戦線(メキシコ革命の先頭に立ったサパタの遺志を継ぐことを掲げている)を名乗り、NAFTAはアメリカに主導されたグローバリズムによる、メキシコ経済を支配するための協定であるとして、その廃棄を主張して武装蜂起したのだった。 → グローバリゼーション
(引用)蜂起した人々はかつてマヤ文明を担っていた、マヤ系の農民であった。彼らは征服したスペイン人によって土地を奪われ、密林地帯で細々とトウモロコシ栽培などの農業を続けていた。メキシコがスペインから独立したあとも、メキシコの白人政府によって収奪された。そのうえこれからもアメリカとの自由貿易によって、未来の自分たちの生活まで破壊される、と考えて蜂起したのだ。蜂起にあたって彼らのスローガンは「ヤ・バスタ(もう、たくさんだ)」だった。<伊藤千尋『反米大陸』2007 集英社新書 p.194>

アメリカへの不法移民

 実際、NAFTAによる貿易自由化が始まった結果、メキシコには大量のアメリカ産トウモロコシ(遺伝子組み換えで増産された)が輸入され、零細なメキシコ農民のトウモロコシ生産は壊滅し、農民の多くは都市に流出するか、北方のアメリカ国境を違法に越えてアメリカに向かった。アメリカはメキシコからの不法移民に苦しめられることとなった。

Episode メキシコ国境に壁を作らせろ!

 2016年のアメリカ合衆国大統領選挙に立候補したドナルド=トランプは、メキシコからの不法移民を防ぐ壁を国境に築き、その費用はメキシコに持たせると表明し、それが不法移民に職を奪われたと考えていた白人貧困層に大受けに受け、瞬く間に共和党候補となってしまった。しかし、冷静に考えれば、メキシコからの不法移民が増大したのは、アメリカの共和党(民主党も同じ)が進めたNAFTA(北米自由貿易協定)でメキシコ経済が破壊されたからなのだ。トランプには政治家として必要な歴史認識がまったく欠けているとしか言えない。

米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)

アメリカのトランプ政権の下で、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わって2020年7月に発効した、米国・メキシコ・カナダ三国の貿易協定。自国産業保護のための性格が強い。

 トランプ政権は自由貿易主義の色濃い北米自由貿易協定が、アメリカの貿易赤字をもたらし、国内の雇用を減少させたとしてその廃棄、あるいは全面的な見直しを主張した。トランプのかねてから主張であり、選挙公約にも掲げていた。それは環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの脱退(2017年)と同様の、保護貿易主義への転換を目指す政策であった。トランプ政権は、メキシコ・カナダとの交渉を重ね、2018年11月、アメリカのトランプ大統領、メキシコのペニャ=ニエト大統領、カナダのトルドー首相が調印して締結された。三国の議会での承認がようやく終わり、2020年7月1日に発効した。
 2020年7月1日に発効した「米国・メキシコ・カナダ協定」the United States-Mexico-Canada Agreement は略称が USMCA である。新NAFTAといわれることもあるが、内容は大きく異なっている。カナダではCUSMAとしている。協定文は序章を除いて34章からなり、さらに付属文書などが2千ページあって、複雑かつ広汎である。協定は16年間有効という時限的なもので、継続には3国の協議が必要。

NAFTAとUSMCAの違い

 この新しい三国の貿易協定は、自由貿易(Free Trade)という表現を外し、従来の自由貿易主義という潮流を終わらせ、アメリカが保護貿易主義に転換したことを示している。それは行き過ぎた経済のグローバルな結びつきが後発国を苦しめているという側面もあるが、トランプの狙いは特に自動車の輸入に規制をかけること(原産地規制※を強めることで)にあり、アメリカの自動車産業を守るという国内向けの政策であった。その一方で、USMCAには、NAFTAの知的財産権の保護についての規定を修正し、アメリカにとって有利になっている。乳製品についてはアメリカとカナダで対立があったが、アメリカの乳製品のカナダへの障壁を若干下げることで合意した。労働者の権利条項はメキシコが労働組合の団結権や団体交渉権を国際基準で認めることを内容としている。
 メキシコ、カナダにもNAFTAによる自由貿易は、利益よりも不利になる面が大きいという判断があったか、国内の反対論も根強かったが、いずれも自国議会で批准が行われ、発効することとなった。背景には強大化する中国経済に対抗する地域的ブロックの形成を図りたいというアメリカの意図があるが、このような保護貿易が、戦後の自由貿易推進という世界貿易機関(WTO)の掲げる理念との衝突が懸念される。また2021年、トランプ政権からバイデン政権に交代したことで、この協定がどうなるのか、不透明なところがある。ただバイデン政権は協定の中の労働条項を「労働者中心の通商政策」と評価し、中国・新疆ウィグル自治区のウィグル人強制労働による綿製品の輸入を拒否する姿勢との関連で認めているという。<JETRO 海外ビジネス短信 2021/7/2 記事
※原産地規制とは、乗用車やトラックを製造するとき、それを現地製とするためには、エンジン、変速機、ボディー・シャーシー、車軸、サスペンション、ステアリング、新型バッテリーが現地製である必要があるということ。外国製部品を輸入して国内で組み立て、自国産だとすることはできないと言うことである。<日経 きょうのことばセレクション USMCA 2018/11/1 記事
<2022/1/25記>
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