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チリ軍部クーデター

1973年9月、チリのアジェンデ社会主義政権を倒したピノチェト将軍による軍事クーデター。ピノチェトは独裁体制が開始された。

 1973年9月11日、チリにおいて、ピノチェト将軍の指揮する軍部によって、アジェンデ大統領の人民連合政権が倒され、権力を掌握したピノチェトによる軍政がおこなわれた。
 アジェンデ大統領による社会主義政策により産業の国有化が進めれたことに反発した軍部及び保守派は、アメリカ(ニクソン政権)のCIAから、資金と軍事支援を得てクーデターを断行した。アジェンデ首相は首相官邸で武器を取って戦ったが、最後は自殺した。

戒厳令下の虐殺

このクーデターには選挙で合法的に選ばれた政権を武力を用いて倒したということで世界各地から非難の声があがるなど国際的な反響も非常に大きかったが、それよりも人々を驚かしたのは人民連合派に対する軍部の迫害の激しさであった。クーデターと同時に、アジェンデ派と目される人々は根こそぎ逮捕され、臨時の強制収容所と化したリチ・スタジアムに連行されて、食べ物も水も与えられず何日も放置されたあげく、拷問にかけられて多くの人々が死亡した。クーデター直後に殺害された人々は二千人から三千人、またクーデター一年後になお投獄されていた人々は七万人とも言われており、その凄まじさがわかるであろう。<G=ガルシア=マルケス『戒厳令下チリ潜入記』の後藤政子解説などによる>
 チリの詩人で1971年にノーベル文学賞を受賞したパブロ=ネルーダは、アジェンダ政権の下でフランス大使を務めた。ガンに罹ってチリに戻り、療養しているときに軍事クーデターが起こった。左翼と見られていたネルーダの家は警官隊に荒らされ、ネルーダも連行されたが、その途中で病状が悪化し死んだ。ネルーダは軍事クーデターの犠牲者のひとりとなった。

Episode もう一つの9.11

(引用)2001年9月11日の同時多発テロで、世界はアメリカに同情したが、南米チリの人々は冷ややかだった。28年前の同じ火曜日にチリでテロを行ったのは、他ならぬアメリカだったからだ。1973年9月11日、南米チリでピノチェト将軍率いる軍部がクーデターを起こし、アメリカの同時多発テロの被害者を上回る、3000人を超す市民を殺害した。これを演出したのが、アメリカ政府機関であるCIAだった。アメリカがチリで行ったことを知れば、民主主義の代表のようにいわれるアメリカが、自国の利益のためには、他国の民主主義も人権も踏みにじったことがわかる。<伊藤千尋『反米大陸』2007 集英社新書 p.116>

映画『ミッシング』・『サンチャゴに雨が降る』

 1973年のチリ、軍事クーデターに巻き込まれて行方不明になったアメリカ人青年、チャールズ=ホーマンを捜す父と妻。チリ警察に連行された目撃があり、アメリカ大使館に助けを求めると、領事らは捜索に協力を約束するが、警察が連行した事実はなく、本人が隠れているのでは?と逆にその交友関係を探ろうとする。父と妻は、銃声がひびき、夜間外出禁止となっているサンチャゴの町で必死に捜索する。分かってきたことは、チャールズは軍事クーデターをアメリカが支援していた事実を知ってしまったらしい、と言うことだった。父はアメリカ大使に面会して問いつめるが、大使は「個人の問題ではない。アメリカの国益の問題だ」ととりあわない。絶望した父と妻に、チャールズが既に殺されているという情報が入った・・・・。父テッドを演じるのはジャック=レモン、若い妻ベス役はシシー=スペイシク、監督は『Z』などで知られるギリシア人、コスタ=ガヴラス。1982年の作品でヴェネツィア映画祭金獅子賞を受賞した。ドラマの展開もJ=レモンの演技も押さえたものだが、なによりも軍事クーデターの緊迫した状況が迫ってくる。無数の死体が横たわる病院の地下室、逮捕者が収容された競技場・・・、対照的に美しいチリとサンチャゴの風景。アメリカのニクソン政権批判をじっくりと訴えてくる。なおこの映画は実話に基づいたトマス=ハウザーという人の原作を映画化したそうで、主人公はこの後、キッシンジャーなど政府当局者とアメリカ大使館関係者を、アメリカ国民に対する保護責任を怠ったとして告発したそうだが、証拠不十分で裁判は終わったそうである。
 なお、チリの軍事クーデターを描いた映画には、『サンチャゴに雨が降る』(1975年、フランス・ブルガリア合作、監督エルヴィオ=ソトー、主演ジャン=ルイ=トランティニアン)があり、アジェンダ政権成立からクーデター、ネルーダの死までを描いているそうですが、未見。日本でDVDが発売されたときには『特攻要塞都市』というタイトルに変更されたそうです。
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書籍案内

ガルシア=マルケス
『戒厳令下チリ潜入記
―ある映画監督の冒険』
1986 岩波新書

伊藤千尋
『反米大陸』
2007 集英社新書