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ヴァルダマーナ/マハーヴィーラ

ジャイナ教の始祖。前6~5世紀、ブッダと同じ時期に活動し、厳しい不殺生を説いてマハーヴィーラ(偉大な雄者)といわれた。

 古代のインドで生まれた宗教であるジャイナ教(ジナ教)の始祖。生没年代は異説も多いが、前549年~477年ごろともされており、ガウタマ=シッダールタとほぼ同じ前6~前5世紀頃の人。ベンガル地方のクシャトリヤ出身で、30歳で出家し、13年ほど苦行して悟りをひらき、ジャイナ教(ジナ教)の始祖となった。ジャイナとは煩悩にうち勝った勝利者(ジナ)の教え、という意味で、ヴァルダマーナはジナともマハーヴィーラ(偉大な雄者)とも呼ばれた。中国の漢訳仏典では大雄とされる。

ヴァルダマーナの教え

 ヴァルダマーナは悟りをひらいて「ジナ」となった。ジナとは「煩悩にうち勝った勝利者」あるいは「自己と欲望の征服者」の意味である。彼の教えは同時代のガウタマ=シッダールタの仏教の教えと重なるところが多い。生きることを「苦」と考え、そこから脱する道として、バラモンのヴェーダにみられる形式的な儀式から脱却し、自己を徹底した苦行の道に投じ、霊魂の浄化を求めた。そして、浄化された霊魂は輪廻転生(サンサーラ)に落ち込むことはない、と教えた。72歳で苦行の生活を終えたヴァルダマーナの到達した道は、あらゆる生物に内在する「生への賛歌」であった。
 ジナはジャイナ教に入信した者には、不殺生・真実語・不盗・不淫・無所有の五大戒律の厳守を求めた。ヴァルダマーナの没後、1世紀ごろ、ジャイナ教は裸行派と白衣派とに二分した。前者は厳格派で厳しい戒律を自らに課して南インドに広がった。後者は寛容派で、多くの支持者を西部・北部インドを中心に獲得した。仏教は12世紀ごろまでにインドでは消滅するが、禁欲的なジャイナ教教団は庶民(ヴァイシャ)の中に支持され、医療や福祉などの社会活動を通じて民衆生活と密着していた。そのため、ジャイナ教はインド外には広がらなかったが、今日まで国内で存続し続けている。<中村平治『インド史への招待』1997 歴史文化ライブラリー 吉川弘文館 p.20-21>