詞
唐から宋代に、民間で発達した韻文の様式。11世紀、北宋の蘇東坡が完成させたという。
詞(ツー)は中国の民間に発達した韻文の様式の一つで、唐ではじまり、五代を経て宋(北宋)で完成された。琴を伴奏に、長短の詩を歌うもので、西域の旋律の影響を受け、異国的な情緒の中で可憐な女性の姿を歌ったものが多いという。 → 宋代の文化
蘇東坡の作品
11世紀後半に活躍した宋(北宋)の政治家、文章家である蘇東坡(蘇軾)は生涯に約2800首の詩を作ったというが、最も有名な作が、旧法党であった彼が、王安石の新法党によって罪を着せられ、湖北の黄州に流刑になっていた時代に、赤壁の戦いの古戦場を訪ねて詠んだ『赤壁の賦』や『後の赤壁の賦』、『念奴橋』(1082年頃)である。(引用)
大江 東に去り
浪は淘い尽くす 千古の風流人物を
故塁の西辺
人は道う是れ 三国の周郎の赤壁なりと
乱れし石は雲を崩し
驚ける濤は岸を裂き
千堆の雪を巻き起こす
江山は画けるが如し
一時 多少の豪傑ぞ
このダイナミックな作品は、「詞」(ツー)と呼ばれるスタイルで歌われている。詞は花柳界から生まれ、もともときまったメロディーに乗せて歌われるものだった。晩唐以来、このジャンルは知識人に注目されるようになるが、依然としてやるせない恋の情緒を歌うのが主流であった。蘇東坡は今あげた「念奴橋」のように、雄大な歴史感覚をテーマとするなど、詞の方向性を大きく転換し、新たな文学ジャンルとして確立したのだった。<井波律子『中国文章家列伝』2000 岩波新書 p.116-118>