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ラテン語

古代ローマ人の言語。中世ヨーロッパで宗教・学術用語として、キリスト教聖職者・知識人の共通語として広く用いられた。また近代まで外交文書などはラテン語で書かれた。

 もとはイタリア半島のラテン人の言語であったものがローマ帝国の拡大に伴って地中海全域に広がった。中世以降はキリスト教教会に付属する学校での学問であった神学の用語となった。聖書は4世紀にヒエロニムスによってギリシア語からラテン語に翻訳された。
 以後、中世ヨーロッパでは知識人は学術用語としてラテン語を学んだため、いわば国際共通語としてキリスト教世界で通用した。ラテン語が俗語化した言語が、ロマンス語系といわれるフランス語、イタリア語、スペイン語などである。実社会では次第に使われなくなって衰えたが、カール大帝のときのカロリング=ルネサンスではその復興が図られた。また、そのころから学問研究の場として成長し始めた中世の大学でも講義はラテン語で行われていた。また13世紀のイギリスのマグナ=カルタなどはラテン語で書かれており、法律や外交文書もそれが用いられていた。しかし文学の世界では次第に口語文学が作られるようになり、ルネサンスの始まりを示すダンテの『神曲』が、トスカナ語で書かれたことが、ラテン語の後退の第一歩となった。

Episode ラテン語は学ぶべきか

 現代でもフランスの学校では12歳になると、ラテン語を学ぶかどうかの選択をしなければならない。それについてのアドヴァイスを求められた歴史家のジャック=ル・ゴフは次のように答えている。
(引用)ラテン語によって過去の遺産へとアクセスすることは大切だと思います。もしあなたが<文系>の職業につくつもりなら、ラテン語をしっかり学習するコースを履修したほうがいいでしょう。理系の職業につきたいのであれば、深くはなくてもいいですからラテン語を学習するコースを選択して、まったく学ばないという事態は避けるべきでしょう。最小の知識であっても、やがてあなたの助けになるだろうというのがわたしの意見です。<ジャック=ル=ゴフ/川崎万里訳『子どもたちに語るヨーロッパ史』2009 ちくま学芸文庫 p.162>