フランシス=ベーコン
17世紀初めのイギリスの科学者。実験を重視し、真理を探究しようとする経験論は、近代科学や哲学に大きな影響を与えた。著作は『新オルガヌム』など。
フランシス=ベーコン Francis Bacon 1561-1626 は17世紀の科学革命を代表する人物の一人。イギリス国王ジェームズ1世の側近で、大法官(最高裁判所長官にあたる)まで務めた。大法官とは現在の日本で言えば最高裁判所長官と参議院議長を兼ねたような地位にあたる。
当時台頭してきた科学に強い関心を持ち、実験を用いた科学研究の重要性を説き、1605年に『学問の発達』、1620年に『新オルガヌム(機関)』などを著した。科学研究の他に、法律、政治、宗教、歴史などに及ぶ著作を残している。没後1627年に発表された遺作『ニュー・アトランティス』は、プラトンの言う海底に沈んだというアトランティス大陸になぞらえて、自然研究のユートピアを描いたもの。なお、同じくイギリスで神学、哲学の立場から自然を論じたロジャー=ベーコンがいるが、中世、13世紀の人で時代が違うので混同しないようにしよう。
当時台頭してきた科学に強い関心を持ち、実験を用いた科学研究の重要性を説き、1605年に『学問の発達』、1620年に『新オルガヌム(機関)』などを著した。科学研究の他に、法律、政治、宗教、歴史などに及ぶ著作を残している。没後1627年に発表された遺作『ニュー・アトランティス』は、プラトンの言う海底に沈んだというアトランティス大陸になぞらえて、自然研究のユートピアを描いたもの。なお、同じくイギリスで神学、哲学の立場から自然を論じたロジャー=ベーコンがいるが、中世、13世紀の人で時代が違うので混同しないようにしよう。
科学研究と経験論
彼の観察・実験で得られたことから真理を帰納的に引き出すという認識の方法は、経験論哲学の出発点として、イギリスのホッブズやロックに引き継がれていく。また、自然科学の面では、血液循環を唱えたイギリスのウィリアム=ハーヴェーなどにも影響を与えた。 → 17世紀イギリス『新オルガヌム』
主著『新オルガヌム』は大著『大革新』の一部として、1620年に発表されたもので、ラテン語の『ノヴム・オルガヌム』が本来の署名。ノヴムは「新しい」の意味、オルガヌムはギリシア語のオルガノンに由来し、もともとは道具であれ機械であれ「動くもの」(あるいは機関と意訳される)を意味した。中世になると研究の道具や手段という意味で用いられようになり、具体的にはアリストテレスの論理学をさす語となった。したがって「ノヴム・オルガヌム」とは、「新たらしい論理学」ということになるが、この時代まで権威を保っていたアリストテレス論理学にとってかわるもの、という意味が込められていた。<大野誠『ジェントルマンと科学』世界史リブレット34 1998 山川出版社 p.18>Episode 冷凍実験で風邪をひいて死んだベーコン
フランシス=ベーコンはジェームズ1世に寵愛され大法官までつとめ、子爵となったが、収賄の疑いがかけられ失脚した。彼の死にはこんな話が伝わっている。あるとき動物の肉を雪の中に置いて保存出来ないだろうか、という考えの浮かんだベーコンは、さっそく実験してみようと、雌鳥の内臓を抜いて雪に埋めた。その雪で体を冷やしたため不快になり、近くの家のベッドで休んだが、そのベッドが1年ほど誰も寝ていない湿ったベッドだったので、ひどい風邪をひき、2、3日後に、息が詰まって亡くなった。<オーブリー『名士小伝』冨山房百科文庫 p.195>Episode ハーヴェイのベーコン評
フランシス=ベーコンと同時代の人で、解剖学者として血液循環を唱えたハーヴェーとは友人であり、その患者でもあった。(引用)大法官ベイコンは彼(ハーヴェイ)の患者であったが、彼はその才智と文章とを大いに高く評価していたものの、大哲学者とは認めようとしなかった。「あの人は、哲学を、大法官らしく、書いている」と笑って私(オーブリー)に言われた。「わたしはあの人を治してあげたよ。」<オーブリー『名士小伝』冨山房百科文庫 p.209>
Episode 冷凍食品メーカーの祖
(引用)16世紀末のロンドン塔は、三人の女王をめぐる多くの物語を見せたものだが、17世紀になると、大法官フランシス・ベイコンが汚職によってそこに送られることになる。この《あらゆる人物の中で、もっとも輝けるもっとも賢明な、そしてもっとも卑しむべき人物(ポープ)》は、雪が牝鶏の腐敗を防げるかの実験中に《実験は成功した》の語を残して死んだ、というロマンチックな逸話によって、科学史家および冷凍食品メーカーより、近代科学の祖と呼ばれることが多い。<森毅『数学の歴史』1988 講談社学術文庫 p.109>