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パラグアイ

1811年、スペインから独立したラプラタ地方の国。南アメリカ大陸最初の独立国であるが、ブラジルとアルゼンチンに挟まれて苦難の歴史をたどる。

パラグアイ GoogleMap

南アメリカの中央部、ラプラタ川上流にあり、ほぼ北をブラジル、南をアルゼンチン、東をボリビアに囲まれている。現在の首都はアスンシオン。
 1536年、スペイン人探検隊がラプラタ川河口にブエノスアイレスを建設したが、先住民の攻撃に耐えきれず撤収した。その残党の一部が川を遡って、1537年にアスンシオンを建設し、定着に成功した。ブエノスアイレスは1580年にアスンシオンからの遠征隊によって再建された。従ってスペイン人が定着したのはアルゼンチンよりもパラグアイが早かったことになる。
 アスンシオンを中心としたパラグアイ社会は、先住民グアラニー人を労働力としたエンコミエンダ制によるタバコとマテ茶を特産とする農園を基礎に発達したが、1607年にこの地に入ったイエズス会によるクアラニー人に対する布教活動が大きな役割を果たした。イエズス会※はジャングルの奥地で先住民を村落ごとに支配する独自の活動を続けた結果、次第にローマ教皇の統制からも離れるようになり、1767年にイエズス会士は追放されてしまった。
※参考 パラグアイのグアラニー人に対するイエズス会士の“すさまじい”布教活動を見事に描いた映画が「ミッション」である。17世紀の南アメリカ大陸の奥地の状況を知る上で参考になる。豪快なイグアスの滝を舞台に話が展開されるが、イエズス会の活動の中心はここから200キロほど下流にあったらしい。

南米大陸最初の独立国

 パラグアイもスペイン植民地のラプラタ副王領に含まれていた。1810年に本国のスペインがナポレオンに征服された知らせが届くと、アスンシオンの独立派はスペイン人官吏を追放して自治評議会を結成、ブエノスアイレスからの統合の呼びかけも断り、1811年6月11日にパラグアイ共和国の独立を宣言した。
 これはラテンアメリカ諸国の独立では、1804年のハイチの独立に次いで二番目であり、南アメリカ大陸では最も早かった。1814年には独立派の指導者フランシアに実権が移譲されると、彼は都市のクリオーリョ支配層をおさえ、農村部の支持を得て1816年には終身大統領として独裁政治を行った。独立後のパラグアイはラプラタ川をめぐってアルゼンチンと対立、鎖国政策をとり独自路線を維持した。
(引用)パラグアイは不思議な国だった。この国には、旧スペイン領の他の国で指導的階級になっている都市的クレオール支配層がいなかった。農村に住み、スペイン語と先住民言語グアラニー語の双方を操り、貧しく、信心深く、固陋なまでに保守的だが、一旦緩急あればおそろしく勇猛な戦士となる人びとが、パラグアイ国民の主要部分をなしていた。そしてかれらが、ひとりの独裁者に絶対の忠誠をささげていたのである。<高橋均『ラテンアメリカ文明の興亡』世界の歴史18 中央公論社 p.331>

鎖国から開国へ

 パラグアイは海に面しておらず、ラプラタ川が唯一の出口であり、また隣接するブラジルとラプラタ諸州連合(アルゼンチン)の領土的野心に常に脅かされていた。そのような条件のもとでパラグアイは一種の鎖国体制を採り、政治も独裁体制を採った。そのためパラグアイはラテンアメリカ諸国の中でカウディーリョによる内乱を経験しなかった。独裁権力はフランシアの死後、その後継者ロペス親子が引き継いだ。ロペス父は一転して開国政策を採り、ヨーロッパの技術や文化の導入に努め、イギリスを手本に軍備を増強した。

パラグアイ戦争

 1862年に父を継いだソラノ=ロペスは、ウルグアイの内紛に乗じてブラジルに戦争を仕掛けた。それに対してブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ三国が同盟を結んでパラグアイとの戦争になった。それが1865~70年のパラグアイ戦争といわれる戦争で、この戦いでパラグアイは人口を半減させ、しかも成人男子人口の90%が戦死し、ソラノ=ロペス自身も戦死するという大敗北を喫した。敗戦によって多くの人口と領土を失ったパラグアイは国力の復興に20世紀半ばまでかかったと言われる。<国本伊代『概説ラテンアメリカ史』2001 改訂新版 新評論 p.144>

Episode 日本陸軍の模範とされたパラグアイ

 太平洋戦争末期、本土決戦を前にして、日本陸軍の中堅幕僚は、しばしば「南米のパラグアイを見習え」と言ったという。「パラグアイは19世紀後半に隣接する三カ国と戦い、大統領が戦死をしたうえに人口が52万人から21万人に減ったらしい。その国を見習えというのは、まさに天皇から庶民まで総特攻で本土決戦を行うという意味であった。」<保阪正康『本土決戦幻想 コロネット作戦編』2009 毎日新聞社 p.248>
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書籍案内

高橋均・網野徹哉
『ラテンアメリカ文明の興亡』
世界の歴史18
1997 中央公論新社

amazon Prime Video

ロバート・デ・ニーロ主演
『ミッション』
監督 R・ジョフィ
1986年 イギリス映画

18世紀の南米パラグァイでのイエズス会宣教師の野心と苦悩。カンヌ映画祭パルムドールを受賞した壮絶な布教活動を描いた作品。