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デパート

フランスの第2帝政時代、1852年にパリのボン=マルシェが開店したのが世界最初のデパートである。

 世界で最初に出現したデパートは、1852年、ブシコー夫妻がパリ改造で開店した、ボン=マルシェと言われている。前年にクーデタで権力を握ったナポレオン3世第二帝政は、産業社会の発展によって労働者の生活を向上させることができるというサン=シモンの思想に影響され、さまざまな産業振興策をとったが、そのような風潮の中で生まれたボン=マルシェは、ブルジョワによる消費社会という現代につながる新しい商業形態を開拓した。 → 1860年代はフランスの産業革命

Episode デパートを発明した夫婦

 ブシコーはマガザン=ヌヴォテと言われる女性用布地を販売する商店の店員として出発した。それは初めてショーウィンドウを用いて商品を展示し、客は自由に出入りできるという小売り形態の店だった。資金を蓄えたブシコー夫妻は1852年に衣類・生活用品の薄利多売の百貨店ボン=マルシェ(「安い」という意味)の経営に乗り出した。彼は当時普及しはじめた鉄道を利用して広範囲に仕入れを行い、斬新な経営を展開した。例えば、バーゲンセールやチラシ広告、催し物など現在のデパートに見られる営業スタイルは全てこのデパートで始まった。またボン=マルシェはガラスや鉄筋を採り入れた斬新な店舗建築を行い、オスマンのパリ改造ともマッチした豪華で巨大な店舗を建設した。この成功によって、パリのブルジョワジーはデパートで買い物をすることが一つのステイタスとなり、都市生活で不可欠なものとなった。またブシコー夫妻の経営は、利益追求だけではなく、社員に対する教育、福祉などでも新しい方式を採用した。社員持ち株制度や、退職金、年金、あるいは社員食堂などにも力を入れた。<鹿島茂『デパートを発明した夫婦』1991 講談社現代新書 p.228>
(引用)近代という時代を作りだすのにあずかって力のあった数多くの発明発見の中で、商業の天才ブシコーによって行われたデパートという発明は、ものを買うという最も人間的な行為を百八十度転倒してしまったという点で、まさに革命的な意味を持っている。すなわち、デパートにひとたび足を踏み入れた買い物客は、必要によって買うのではなく、その場で初めて必要を見いだすことになったのである。<鹿島茂『デパートを発明した夫婦』1991 講談社現代新書 p.228>