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女性差別撤廃条約

1979年、国際連合総会で採択された、あらゆる女性差別を禁止し撤廃する条約。18世紀末からの女性解放運動、女性参政権運動が、一応の結実を見た。日本は1985年に批准。様々な面での女性差別、不平等は今もみとめられ、問題は続いている。

国連の女性差別撤廃への取組み

 国際連合は、1946年2月、女性の地位に関する問題については、特別な助言が必要であるとして、「婦人の地位小委員会」を人権委員会の中に設け、同年6月に小委員会から完全な委員会に昇格、性による差別問題をあつかう「婦人の地位委員会」が発足した。世界の半数の人が関わる性の平等という原則を国連が重視し、その活動の中心に「婦人の地位委員会」がおかれることになった。
 すでに国連は、国際連合憲章前文で「基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念を確認」し、として男女同権の原則を掲げていた。さらに1948年12月10日、第一回総会で、エレノア・ローズヴェルトを議長とする世界人権宣言の起草委員会を発足させ、1948年に総会で採択した。その第二条には「何人も、人種・皮膚の色・性・言語・宗教・・・というようないかなる種類の差別を受けることなしに、・・・すべての権利と自由とを享有する権利を有する」と定められた。
 世界人権宣言に法的拘束力を持たせるために、1966年に採択された「国際人権規約」の「社会権規約」・「自由権規約」において、性による差別は一般的な差別の一つとして禁止された。「国連憲章」「世界人権宣言」「国際人権規約」で性にもとづく差別禁止は一般的規範として確立し、それにあわせて個別的分野での男女平等をはかる条約が作られていった。国際労働機関(ILO)は1951年に「同一価値労働についての男女同一報酬条約」、1958年に「雇用および職業における差別に関する条約」、1965年に「家庭責任を持つ女性の雇用に関する勧告」(これは1981年に「家庭責任をもつ男女労働者に関する条約」が制定されたことで廃棄)された。
 婦人の地位委員会のイニシアティブのもと、国連総会は1952年「婦人の政治的権利に関する条約」を採択した。国連結成時、51の加盟国のうち、女性が参政権をもっていたのはわずか30国にすぎなかった、という状況を変革し、国連憲章で規定された男女平等権を政治的権利の分野で実質化するためのものだった。条約は選挙権、被選挙権など立法機関だけでなく、行政・司法機関などすべての公的職業で男性と女性は平等であると規定した。

女性差別撤廃条約の締結

 国連の婦人の地位委員会は、1972年に国連憲章・世界人権宣言・女性差別撤廃宣言(1967年)を踏まえ、新たに男女平等に関する包括的条約を採択する必要があると決議し、1974年から起草に着手、6年をかけて1979年12月18日に女性差別撤廃条約の採決を実現した。これは、1791年のオランプ=ド=グージュの「女性および女性市民の権利宣言」以来、長い歳月をかけて、はじめて成立したものである。この条約は1981年に発効、日本は1985年に批准した。

内容

 女性差別撤廃条約(日本では女子差別撤廃条約と言われることも多い。) Convention on the All Forms of Discrimination against Women <以下、辻村みよ子・金城清子『女性の権利の歴史』岩波市民講座人間の歴史を考える⑧ 1992 岩波書店 p.249-264 の全文から要約した。>
第2条 締約国は、女子に対するあらゆる形態の差別を非難し、女子に対する差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により、かつ、遅滞なく追求することに合意し、及びこのため次のことを約束する。
(a)男女の平等の原則が自国の憲法その他の適当な法令に組み入れられていない場合にはこれを定め、かつ、男女の平等の原則の実際的な実現を法律その他の適当な手段により確保すること。
(b)女子に対するすべての差別を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む)をとること。
(c)女子の権利の法的な保護を男子との平等を基礎として確立し、かつ、権限のある自国の裁判所その他の公の機関を通じて差別となるいかなる行為からも女子を効果的に保護することを確保すること。
(d)女子に対する差別といかなる行為からも女子を効果的に保護することを確保すること。
(e)個人、団体又は企業による女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとること。
(f)女子に対する差別となる既存の法律、規則、慣習および慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む)をとること。
(g)女子に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止すること。
以下、内容のみを適記する。
第3条 女子の完全な能力開発及び向上を確保するための適当な措置をとる。
第4条 母性を保護するための特別措置は差別と解してはいけない。
第5条 
(a)両性いずれかの劣等性若しくは優越性の観念又は定型化された役割に基づく偏見及び慣習を撤廃するため、男女の社会的、文化的行動様式を修正すること。
(b)母性についての適正な理解、子の養育・発育における男女の共同責任についての認識を確保すること。あらゆる場合において、子の利益は最初に考慮するものとする。
第6条 女子の売買、女子の売春からの搾取を禁止するすべての適当な措置を執ること。
第7条 政治的及び公的生活における女子に対する差別を撤廃すること。特に女子に対して男子と平等の条件で次の権利を確保する。
(a)あらゆる選挙及び国民投票で投票する権利、すべての公選による機関に選挙される資格を有する権利。
(b)政府の政策の策定・実施に参加する権利、公職に就き、公職を遂行する権利。
(c)非政府機関、非政府団体に参加する権利。
第8条 国際機関の活動に参加する機会を、女子に対して男子と平等の条件を確保すること。
第9条 国籍の取得・変更・保持での男子との平等な権利を与える。
第10条 教育の分野における女子に対して男子と平等の権利を確保すること。
第11条 雇用の分野における女子に対する差別を撤廃するため、次の措置を執ること。
(a)すべての人間の奪い得ない権利としての労働の権利。
(b)同一の雇用機会(同一の選考基準の適用)についての権利。
(c)職業を自由に選択する権利、昇進、雇用の保障、労働に関する給付、条件についての権利、職業訓練を受ける権利。 (d)同一価値の労働についての同一報酬および同一待遇。
(e)社会保障についての権利、有給休暇についての権利。
(f)作業条件に係る健康の保護および安全についての権利。
第12条 保険サービスを享受する機会の確保。妊娠、分べん及び産後の期間中の適当なサービス(必要な場合は無料にする)並びに妊娠及び授乳の期間中の栄養の確保。
第13条 他の経済的・社会的分野における差別の撤廃――家族給付、銀行貸付け、抵当などの金融上の信用についての権利。リクリエーション、スポーツなどあらゆる文化的活動に参加する権利。
第14条 農村の女子の権利の保護。
第15条 法律上での男女の平等。
第16条 婚姻、婚姻の解消、子の養育、財産の所有、処分、での配偶者双方の同一の権利。
第17条 この条約の実施に関する進捗状況を検討するため、女子に対する差別の撤廃に関する委員会を設置する。(以下、委員会に関する規定)
第18条 締約国は、この条約の措置したことを、委員会の検討のため、国際連合事務総長に提出することを約束する。(加盟後1年以内、以後はすくなくとも4年ごと。)以下略。