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羅針盤

磁石によって一定の方位を知るもので、宋代の中国で実用化され、イスラーム圏から西欧に伝わって改良され、大航海時代を出現させた。

 その磁石が南北を指すことを発見したのは中国人が最初であり、火薬製紙法活字印刷を含めて)、磁石の使用を中国人の三大発明と呼んでいる。すでに後漢では占いの道具として使われており、六朝時代には方角を知るのに指南魚というものがつくられた。時代の11世紀になると外洋用の大型船ジャンク船にも使われるようになり、中国商人の「海の道」での活躍をもたらし、それが中国に来航していたアラビア人(ムスリム商人)によって知られ、さらにヨーロッパに伝わった。ヨーロッパで磁針をピボットに支えるように改良され、羅針盤が発明された。明の鄭和の大航海でも羅針盤が使われた。 → 宋代の文化
 羅針盤はヨーロッパに伝えられて、15世紀末に始まる大航海時代の遠洋航海術を可能にし、ルネサンスの重要な新技術の一つとなった。

中国での発明とヨーロッパへの伝播

 磁石が鉄を引くという事実の発見は、ギリシアですでに知られていたが、中国でも紀元前からわかっており、磁石が鉄片を引き寄せるのがちょうど慈母が赤ん坊を引き寄せるようなものなので、古くは慈石と書かれた。磁石の使用は占いとともに始まっている。後漢の王充が書いた『論衡』という書物に、磁石をスプーン状に成形して、それを式盤というものの上に投げ、運勢を占う「司南」というものが出ている。磁石の使用は、六朝時代になると地相家が方角を知るのに役立てられるようになって、磁針をつくる方法や磁針をセットする方法が改良された。中国では磁石を糸でぶらさげたり、軽い木で作った魚の腹に磁針をはめこみ、水にうかべる指南魚がつくられた。もともと占いから出発した磁石の使用は、11世紀の頃になると黄海にも役立てられるようになり、中国船に使われた指南魚が、さかんに中国に来港していたアラビア人によって知られ、さらにヨーロッパに伝わった。<藪内清『中国の科学文明』岩波新書p.85-87などによる>

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藪内清
『中国の科学文明』
1970 岩波新書