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自然主義

19世紀後半、ヨーロッパで盛んになった、文学と美術における潮流。⒚世紀前半に古典主義・ロマン主義に対して新しい潮流となった写実主義をさらに進め、社会の矛盾や人間の欲望を直視し、問題を提起した。

 19世紀後半のヨーロッパは、一連の1848年革命によってウィーン体制が崩壊し、反動的な君主政治は後退したが、産業革命の進行・資本主義社会の形成によって新たな社会矛盾としてブルジョワジーと労働者階級の対立が明確になってきた。そのような時代的変化を反映して、芸術の分野でも社会と人間の矛盾を告発し、現実を鋭く抉る作品が生まれた。そのような潮流をひろく自然主義と言っている。文学史では、19世紀前半を写実主義、後半を自然主義として段階付けをすることが一般的であるが、美術史では19世紀中ごろを写実主義(リアリズム)の時代とし、自然主義絵画をそれに含めることも多い。

文学史上の自然主義

 文学の分野ではすでに19世紀前半、古典主義の理想追求やロマン主義の非現実的な幻想から脱して、社会と人間をありのままに価値判断を加えず、客観的に描く写実主義文学がフランスのスタンダール、バルザックらによって創始されており、その大成者としてフローベール(1857年『ボヴァリー夫人』を発表)があげられている。
 19世紀後半には写実主義を継承しながらさらに社会の矛盾に鋭く突く作品が現れた。それらの現実社会に科学的に迫る傾向の文学を自然主義文学として区分する。1870年代に自然主義文学を最初に提唱したのはフランスのエミール=ゾラ(『居酒屋』、『ナナ』)で、その他にモーパッサン(『女の一生』1883)、ノルウェーのイプセン(『人形の家』1879)、スウェーデンのトリンドベリ(『令嬢ジュリー』1888)、ドイツのハウプトマン(『沈鐘』1896)などがあげられる。19世紀後半のロシアにはドストエフスキートルストイ、チェーホフが現れるが、彼らは写実主義・自然主義の枠を越えた精神性のある作品を残している。
 これらの文学における自然主義の潮流に対し、19世紀末には、自然主義は芸術を現実に追随させていると反発して、倫理的な価値観を廃し、ひたすら美を追求する耽美主義、象徴主義などの新しい傾向が生まれ、しばしば退廃的・厭世的側面が町長されて「世紀末」と言われるようになる。

美術史上の自然主義 コローとミレー

コロー 真珠の女
コロー『真珠の女』 (1867-70)

ミレー 晩鐘
ミレー『晩鐘』 (1859)
 自然主義は19世紀後半の傾向として美術史上でも現れているが、写実主義との関係などで文学史上とは微妙なずれがある。また、高校用の世界史用語集では、自然主義絵画は「ありのままの素朴な自然の姿を描く様式」でミレーに代表され、写実主義絵画は「現実の自然や人間の生活を客観的に描写しようとする様式」でクールベをその例としてあげている。そして18~19世紀の美術史を、古典主義絵画(18世紀末~19世紀初め)⇒ロマン主義絵画(19世紀前半)⇒自然主義絵画(19世紀中頃)・写実主義絵画(19世紀中頃)⇒印象派(19世紀後半)⇒後期印象派(19世紀末)と区分していることが多い。この分類では、自然主義絵画に入る作家としてはコローとミレーがあげられる。この二人は、1830年代以降パリ南郊のフォンテーヌブローの森の近くのバルビゾン村に住み着いて風景やや農民生活を描いたバルビゾン派の影響を強く受けて登場した。
コロー(1796~1875)はたびたびイタリアを旅行し、フランスの風景画の他、人物画にも新境地を開いた。その代表作『真珠の女』(1867-70)は「画面構成は新古典主義的、主題はロマン主義的、目的は写実主義的、描法は印象主義的」と評された。
ミレー(1814~75)はノルマンディ地方の農村に生まれ、パリに出て修行し、1848年に『箕をふるう人』を発表して好評を得、『種蒔く人』(1850、岩波書店のマーク)、『落ち穂拾い』(1857)、『晩鐘』(1859)などで農民画家としての地位を確立した。ミレーの描く農村は、それまでの牧歌的で明るい農村ではなく、黙々と農作業に取り組む農民や一日の労働を終えて一服する農民たちであり、ミレーは「無名の農民たちのなかに新しい“英雄”を見出した」と言える。<高階秀爾『フランス絵画史』1990 講談社学術文庫 p.233>
参考 美術史上の自然主義と写実主義  しかし、一般的な美術史の概説書では、多くの場合、リアリズム絵画として写実主義・自然主義を区別せず説明していることが多いようだ。両者ともリアリズム絵画の訳とされている。高階秀爾『フランス絵画史』では、写実主義絵画は1830年代に始まり、1855年のクールベの登場によって写実主義=リアリズムという美学の概念が確立した、と説明し、コローやミレー、ドーミェ、クールベらを扱っており、自然主義絵画という日本語の範疇は用いていない。
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ノートの参照
第12章4節 ア.ロマン主義と自然主義



















書籍案内

高階秀爾
『フランス絵画史』
1997 講談社学術文庫