ハディース
イスラーム法の根拠とされるムハンマドの言行を伝える伝承を収集した書。9世紀にブハーリーによって編纂された。
ハディースとは一般的なアラビア語では広く「伝承」を意味するが、イスラーム教においては特にムハンマドのことばや行い(言行)についての伝承を言う。ムハンマドと同時代の、最初期の信者(サバーバ=教友という)が直接目にしたり耳にしたことを、次の世代に言い伝え、さらに語り継がれ、信仰を導く教えとなっていった。そのムハンマドの言行録として、死後まもなく7世紀に編纂されたコーラン(クルアーン)と並んで、その後9世紀にまとめられた伝承集がハディースである。
スンナとシャリーア 預言者ムハンマドの言行のうち、信仰に関わる宗教的なものとともに、人の生き方に関わる倫理的なもの、婚姻や契約などの社会規範について述べた法律的な部分など、イスラーム教徒として守るべき慣行は特にスンナといわれて重視された。それはコーランとともにイスラーム法(シャリーア)の基準とされ、裁判官(カーディ)の出す判決の拠り所とされた。そのため、ハディースに伝えられた伝承が、正しいものであるかどうかは非常に重要な問題であったので、伝承そのものとそれがどのように伝えられたかを示す部分がなければハディースとは認められなかった。またその事実を探求する学問として、イスラーム歴史学が生まれ、盛んになった。
ブハーリー 9世紀に中央アジア、現在のウズベキスタンのブハラ出身のブハーリーが、16年の歳月を費やし、60万に及ぶムハンマドのことばと行い(言行=スンナ)の伝承(ハディース)を収集し、このなかから信頼度の高い3700余の伝承を選んで『真正ハディース集』にまとめた。この後も多くのハディース集が編まれたが、いずれもブハーリーの伝承集を基本にしている。<佐藤次高『イスラーム世界の興隆』世界の歴史8 中央公論社 1997 p.167>
※『ハディース』の日本語訳 中公文庫に牧野信也氏による全6巻の『ハディース』(2001)がある。最近、小杉泰氏による『ムハンマドのことば―ハディース』(2019)が岩波文庫から1冊本で出されたので読みやすくなった。
スンナとシャリーア 預言者ムハンマドの言行のうち、信仰に関わる宗教的なものとともに、人の生き方に関わる倫理的なもの、婚姻や契約などの社会規範について述べた法律的な部分など、イスラーム教徒として守るべき慣行は特にスンナといわれて重視された。それはコーランとともにイスラーム法(シャリーア)の基準とされ、裁判官(カーディ)の出す判決の拠り所とされた。そのため、ハディースに伝えられた伝承が、正しいものであるかどうかは非常に重要な問題であったので、伝承そのものとそれがどのように伝えられたかを示す部分がなければハディースとは認められなかった。またその事実を探求する学問として、イスラーム歴史学が生まれ、盛んになった。
ハディースの編纂
ハディースの収集はムハンマドの死の直後から始まり、8世紀には最初の編纂が行われ、その後も膨大なハディースとそれを批判的に検証した書が書かれた。ハディース編纂には二種類があり、一つは婚姻や契約などの項目ごとに並べたもの(ムサンナド)、一つは伝承者ごとに並べたもの(ムスナド)であったが、次第に裁判の実務で用いられるのに便利な前者が多くなった。いくつかあるハディース(伝承集)でも最も良く知られたのが9世紀のブハーリーが編纂したものであった。ブハーリー 9世紀に中央アジア、現在のウズベキスタンのブハラ出身のブハーリーが、16年の歳月を費やし、60万に及ぶムハンマドのことばと行い(言行=スンナ)の伝承(ハディース)を収集し、このなかから信頼度の高い3700余の伝承を選んで『真正ハディース集』にまとめた。この後も多くのハディース集が編まれたが、いずれもブハーリーの伝承集を基本にしている。<佐藤次高『イスラーム世界の興隆』世界の歴史8 中央公論社 1997 p.167>
※『ハディース』の日本語訳 中公文庫に牧野信也氏による全6巻の『ハディース』(2001)がある。最近、小杉泰氏による『ムハンマドのことば―ハディース』(2019)が岩波文庫から1冊本で出されたので読みやすくなった。