コーラン/クルアーン
ムハンマドの口から語られた神(アッラー)の啓示をまとめた、イスラーム教の経典。正しくはアル=クルアーン。信仰の指針でありイスラーム社会の規範の根源となる。日本ではコーランで定着しているが現地音ではクルアーンが正しい。
イスラーム教の経典である『コーラン』は、原音に忠実に表記すれば、アル=クルアーンであるが、日本ではコーランとして定着している。アラビア語で書かれたイスラーム教の根本教典で、預言者ムハンマドが語った啓示(神の言葉)を、彼の死後にまとめられたもの。礼拝や様々な集会で節を付けて美しく朗誦されるもので、クルアーンも「音読される」の意味である。またコーランは神の言葉そのものであるので、アラビア語からほかの言葉に移すこと(翻訳すること)は出来ない、とされている。今でも世界中のイスラーム教の聖職者はアラビア語のコーランを理解し、朗誦している。
クルアーンはムハンマドの口からあたえられた啓示であるとされるが、啓示が示された順に並べられているのではなく、断片的な文章が前後の関連なく出てくるので、その読解、解釈には法学者、神学者の間でも異なることがある。コーランだけでも大部な書物となるが、さらにその欠を補うために、生前のムハンマドの言行を、詳細にあつめたのがハディースである。
コーランの編纂
コーランはムハンマドが直接書きしるしたものではなく、ムハンマドの死後、順っていた人々がムハンマドの口から語られた神の啓示を暗誦していたものを、644年、第3代のカリフとなったウスマーンによって書物にまとめられたものである。仏教の仏典やキリスト教の聖書もシャカやイエスの死後にまとめられたものであるが、仏典はシャカの死後数百年たってから、新約聖書はイエスが亡くなってから約400年後に現在の形にまとめられたものであるのに対し、コーランはムハンマドの教えを直接聞いた人々の手によって文字化されたので、世界の宗教の聖典の中ではよく教祖の肉声を保存している経典であると言うことができる。<中田考『イスラーム 生と死と聖戦』2015 集英社新書 p.40>クルアーンはムハンマドの口からあたえられた啓示であるとされるが、啓示が示された順に並べられているのではなく、断片的な文章が前後の関連なく出てくるので、その読解、解釈には法学者、神学者の間でも異なることがある。コーランだけでも大部な書物となるが、さらにその欠を補うために、生前のムハンマドの言行を、詳細にあつめたのがハディースである。
イスラーム法の根源
またコーランは、イスラーム教徒(ムスリム)にとって信仰の拠り所であると同時に生活の規範でもあり、またイスラーム社会の根源ともされた。そこでコーランは、後にまとめられたムハンマドの言行の詳細な伝承を集めたハディースとともにイスラーム法(シャリーア)の基準となり、裁判もそれにもとづいて行われている。またコーランとハディースの解釈にあたる学者がウラマーであり、現在に至るまでイスラーム社会の指導者として重きを為している。参考 「コーラン」か「クルアーン」か
最近は高校教科書でも『クルアーン(コーラン)』として、クルアーンを正しい表記としている(現行版、実教出版、帝国書院など)。山川詳説世界史では依然としてコーランの表記のみであるが、山川用語集では『コーラン(クルアーン)』とされるようになったので、クルアーンの表記もかなり優勢になっていると言えるだろう。 イスラームの用語は、日本には西欧を通じて入ってきた訛りが定着してしまったようだが、最近では、イスラム→イスラーム、マホメット→ムハンマドの正しい言い換えが定着した。それにならえば当然「クルアーン」と言わなければならない。(引用)日本語のコーランは Koran(英語・ドイツ語)もしくは Coran(フランス語)をそのまま読んだものだが、もちろんこれらのヨーロッパ語は、アラビア語を適当に(適切に、ではなく、いいかげんに、という意味で)音写したものなのである。もとのアラビア語のつづりをローマ字になおして示せば、Qur'ān となる。この「'」がくせもので、これはアラビア語ではハムザという一つの子音をあらわす。これは喉の奧を閉めて一時的に息をとめることによってえられる音を示すのだが、そういうややこしいことはともかく、ān が一つの音節をなしていることが重要である。つまり音節の切れ目に従って読めば、クル(Qur)アーン('ān)となるのであって、コー(Ko もしくは Co )ラン(ran)なのではない。<東長靖『イスラームのとらえ方』1996 世界史リブレット15 山川出版社 p.26-27>