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デーン人/デーン朝

デンマークを拠点としたノルマン人で、9世紀に盛んに征服活動をおこない、一部はブリテン島に侵攻し定住した。1016年にはクヌート王がイングランドを征服し、デーン朝を建てた。

 8~11世紀、北ヨーロッパのノルマン人は、第2次民族大移動といわれる膨張期を迎え、ヨーロッパ各地でヴァイキングといわれて恐れられた。そのうち、イギリス(ブリテン島、アイルランド)に来襲した人々はデーン人といわれ、現在のデンマークを本拠としていた。
 デーン人はフランス北部のセーヌ川河口に野営地を作り、そこからフランスの都市をたびたび襲撃した。ルーアンやナントを一時占領し、南はプロヴァンスやイタリアのトスカナ、地中海のバレアレス諸島にまで勢力を拡げた。

デーン人のイングランド侵攻

 8世紀の末頃から大ブリテン島の海岸に侵攻を開始し、アングロ=サクソン七王国を脅かした。851年には彼らは海岸地方から内陸に侵攻して、一時はロンドンも制圧し、イングランドに定住するようになった。866年にはイングランドの大半がデーン人の法と慣習(デーンロー)によって支配される地となった。
 9世紀末にはウェセックス王アルフレッドが反撃に転じ、886年にはロンドンを奪回、イングランド王国を復興させたが、彼はイングランドの北東部一帯をデーン人の支配地として認めたので、その地方はデーンロー地方といわれた。彼はアルフレッド大王と称され、法律を整備し、学問も奨励して王国の基盤を作った。10世紀にはイングランド王が次第にデーン人の領域を狭めていった。

デーン朝

 11世紀に入ると、イングランドは再び活発となったデーン人の侵攻を受けることとなった。イングランド王は同じくデーン人に侵攻されていたノルマンディ公と結んでデーン人に対抗しようとし、1002年にはイングランド内のデーン人を殺害したため、デーン人のデンマーク王スヴェンにイングランド侵攻の口実を与える結果となった。1013年、デンマーク王スヴェンが上陸すると、イングランド王はノルマンディーに亡命、イングランドの有力貴族はスヴェンを国王として認めた。スヴェンが急死したためその子クヌート(カヌートとも表記)がイングランド王位を継承、旧王勢力を撃破して、改めて1016年にイングランド王に即位した。

北海帝国

 クヌートは、1019年に兄のハーラルが急逝したためデンマーク王も兼ね、イングランドとデンマークにまたがる北海帝国の盟主となった。デンマークの強大化を恐れたノルウェースウェーデンが連合軍を作りそうな動を見せると、機先を制してノルウェーを撃破し、スウェーデンの一部も支配下においた。こうしてクヌートは北海に面したほぼ全地域をおさえ、イングランドは北海商業圏の一角を占めることで、都市と商業が大きく成長することとなった。

封建社会の形成

 クヌートは「海峡を越えた」王政を行うため、不在になることも多かったので、イングランドをノーサンブリア、イースト=アングリア、マーシア、ウェセックスの4つの伯領(アールダム)に分け、各伯(アール)に委託して統治を行わせた。この時代から地方の有力貴族は「伯」と言われるようになった。、また、クヌートはキリスト教に改宗し、戦乱によって荒廃したイングランドの復興に努めたため、デーン人もアングロ=サクソンとの同化が進んだ。この時代に地方貴族(豪族)は荘園領主として荘園を経営し、荘園内の村落にカトリック教会が建てられ、荘園制とカトリックというヨーロッパ封建社会のしくみが出来上がっていった。

デーン朝の崩壊

 デーン人はイングランドに侵攻し、一時期支配を行ったが、キリスト教を受容しながら次第にアングロ=サクソンに同化した。また、デーン朝は1035年にクヌートが死ぬと、その広大な領土を維持することが出来ず、急速に分解した。イングランドも混乱が生じ、有力貴族たちは、デーン朝の国王に代わって、1042年にエゼルレッド王の子のエドワード証聖王(懺悔王)を迎え、アングロ=サクソン人の王位を復活させた。 → イギリス

参考 デーン人由来の地名・人名

 ヴァイキング時代と呼ばれる8世紀から11世紀半ばまでの間に、英語は北欧語の影響を強く受けている。北欧語は古ノルド語と呼ばれ、現在のデンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、アイスランド語などの先祖にあたる。北欧語の影響は地名に見られ、かつてデーンロー(アルフレッド大王によってデーン人の支配権が認められた地域、イングランドの東北部)には、Derby,Rugby,Whitby などの -by がつく地名が約600ヶ所以上、また Althorp,Bishopsthorpe など、-thorp(e) のつく地名が約300ヶ所ある。この -by や -thorp は北欧語でそれぞれ「町」や「村」を意味する。<寺澤盾『英語の歴史』2002 中公新書 p.55>
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寺澤盾『英語の歴史』
2002 中公新書