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スエズ運河株式買収

1875年、イギリスのディズレーリ首相が、スエズ運河会社の株式を買収し、その経営権を握った。イギリス帝国主義の第一歩とされる。「インドへの道」を獲得したイギリスは1877年にインド帝国を成立させる。

 スエズ運河は、フランスのレセップスがエジプトのパシャの許可を得て、両国が出資して建造1869年に完成したが、6年後の1875年に財政難に陥ったエジプト政府はその持ち株の売却を図った。知らせを聞いた首相ディズレーリは、フランスに先んじてスエズ運河の株を買収を決断、ロスチャイルド財閥の資金提供を受け、44%の株式を手に入れた。議会の承諾を受けない独断であったが、これによってイギリスのエジプト支配はフランスを押しのけて進むことになる。

イギリス、帝国主義段階へ

この出来事は、イギリス帝国主義政策の最初ともされている。18世紀の70年代から産業革命を進めていたイギリスが、資本主義市場経済を維持、発展させるために不可欠な市場であったインドを、従来のような東インド会社を通じての間接支配から、直接統治に切り替えることが可能になったことをいみする。スエズ運河買収はイギリス資本主義にとって重要な意味を持っていた。

Episode 「陛下、あれはあなたのものです。」

 エジプト政府がスエズ運河会社の株を売りに出そうとしているという情報は、ロスチャイルド家の情報網を通じてディズレーリにもたらされた。ディズレーリは、その情報がフランスに知られる前に決断する必要に迫られた。資金提供を「お国のためだ」とロスチャイルドに求めると、ロスチャイルドに「では、あなた側の抵当物件は?」と問われた。交渉に当たったディズレーリの秘書官はそれに対し「イギリス政府であります!」と答えたという。こうしてロスチャイルド家は大英帝国を担保として資金を融資し、イギリスは一夜にしてフランスを押しのけてスエズ運河の筆頭株主となり、それは以後のイギリスの生命線となった。その夜、ディズレーリはヴィクトリア女王に、It is just settled;you have it,Madam. という簡単な報告文を書いた。<牟田口義郎『物語中東の歴史』2001 中公新書 p.280>
インド帝国の成立 スエズ運河を獲得したことは、イギリスにとって植民地インドへの最短航路を手に入れたことになり、それによってインド支配を確実なものとするため、1877年1月1日、ヴィクトリア女王がインド皇帝を兼ねる形をとってインド帝国をさせた。