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ワクフ

イスラーム社会に於ける寄付を意味する語で、あらゆる公共施設を運用した。

 イスラーム教世界で、イスラーム法(シャリーア)の規定に基づき、公共の施設を運営するために行われる寄付のこと。イスラーム教信徒(ムスリム)の義務とされる五行(信仰告白・礼拝・断食・喜捨・巡礼)のなかの喜捨(ザカート)にもとづく寄進行為とされる。都市におけるモスクマドラサ(学校)、病院、キャラバンサライ(商人宿)などの施設を始め、公衆便所や水飲み場などもワクフで運営される。例えば一人の商人が経営する賃貸住宅の利益の半分を、特定のマドラサの運営費に充てることを公衆に約束する。そのマドラサの教授の給与や、学生の寄宿舎の費用はそのワクフから支出されることになる。現在でもイスラーム都市ではワクフが機能している。

Episode 市長も市役所もない都市

(引用)イスラーム世界の都市には、市長もいなければ市役所もない。権力が都市の秩序を維持したのではなかった。制度化された、閉鎖的な自治組織が都市を維持したのでもなかった。さまざまなワクフが維持したのである。そしてワクフによって維持された施設は、特定の「市民」だけが利用したのではなく、誰でもが自由に利用できたのである。<『都市の文明イスラーム』新書イスラームの世界史1 講談社現代新書 後藤明執筆分 p.98>

参考 ワクフに見るイスラーム市場社会

※以下、加藤博『イスラム世界の経済史』によって、ワクフとワクフ制度についてまとめた。
 ワクフというアラビア語は、「停止すること」「凍結すること」を意味し、寄進者が寄進する財産の処分権を停止・凍結して、それを自らが指定する管理人に委ね、そこからあがる収益を慈善目的のために与えることを取り決めた契約である。ワクフを設定するときには契約書を作成するが、その書式は①ワクフ設定の宣言、②ワクフ設定者の特定、③ワクフに組み込まれるものの特定、④ワクフの対象の特定、⑤ワクフの条件、⑥日付、という決まっている。通常、③のワクフに組み込まれるものとは土地や建物など、その利用によって永続的な収益を得られる不動産物件であり、④のワクフの対象とはワクフ物件から収益が充てられる公共的施設である。具体的にはモスクとモスクに附属する教育機関であるマドラサ、通行人に水を提供する共同給水泉(サビール)、病院、墓地などである。一般にワクフといった場合は、③のワクフ物件を指す。
ワクフの社会的機能
  • ワクフ設定者にとってイスラーム教徒としての宗教心を満足させる。同時に財産をワクフとして設定することで国家の恣意的な介入を防ぐことが出来た。(国家といえどもワクフとして設定された物件には正当な理由なく干渉できなかった。)
  • イスラーム社会(共同体)にとっては、ワクフからの収益が公共施設の建設・維持・運営にあてられることによって、社会資本の充実という恩恵を受けた。
  • ワクフ施設が公共性の高い地域に集積されることによって、都市の形成と拡大にとって核となる役割を担った。
  • 国家にとってはワクフ制度によって社会との繋がりを確保し、統治の正統性の承認を得る有力な手段となった。特にアラブ人以外の多くの民族が統治下に入ってくると、多民族が混合する複合社会の中で普遍的規範としてのイスラームのイデオロギーを浸透させることに役立った。「イスラーム世界の政治権力にとって、イスラームの宗教的精神の発露であるワクフの設定は、住民から統治の認知を確保するために不可欠な手段であった。」
<加藤博『イスラム世界の経済史』2005 NTT出版 p.176-186>

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書籍案内

佐藤次高・鈴木董編
『都市の文明イスラーム』
新書イスラームの歴史1
講談社現代新書 1993

加藤博
『イスラム世界の経済史』
2005 NTT出版