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コカ

アンデス高地で栽培される植物で麻酔作用があり、インカ帝国では祭祀などで用いられていた。スペイン統治下でインディオに強制労働を強いる際に用いられ、麻薬コカインの原料ともされている。

 トウモロコシジャガイモ、あるいは、トマトなどと同じくアメリカ大陸原産の農作物の一であるが、強い麻酔作用があるので用途は特殊なものであった。 インディオは、コカの葉を固めたものを噛むことによって、疲労を回復させたり、気力を持ち直すために用いていた。
 特に、インカ帝国時代のインカ文明では、宗教儀式で用いられていたほかにも、帝国内の道路網で通信伝達の役割を担っていたチャスキ(飛脚)も途中でコカの葉を噛んで走力を回復したという。しかし、コカの葉の使用はチャスキが使用する以外は、宗教的儀式と医療目的以外で一般に使用することは禁止されていた。

スペイン入植者のコカ悪用

 15世紀末に始まったスペイン人のアメリカ大陸征服活動によって、1533年にインカ帝国が滅亡すると、スペイン人支配者はコカの特性に着目した。カトリック宣教師は先住民に異教の儀式に使われるコカを禁止したが、入植者はインディオに対する強制労働を過酷な条件のもとで実施するに際し、彼らがコカに救いを求めることを知り、コカを栽培してインディオに売りつけ、暴利を貪るようになった。これによって多くのインディオは中毒に陥り、苛酷な労働に耐えられず多くが命を落とす結果となった。ポトシ銀山で銀の採掘が始まると老若男女をとわず鉱山で働いたが、スペイン人は彼らにコカの葉を与え、それまでコカの葉を使うことはほとんどなかった民衆が、コカの葉の虜になってしまった。1920年代には銀の生産は50%に伸びたが、その一方で先住民の鉱夫が推定で50万人が死亡している。<ビル・ローズ/柴田譲治訳『図説世界史を変えた50の植物』2012 原書房 p.70-75「コカノキ」>
インディオの銀とコカ 麻薬性のある「コカの葉」の生産と商業化はインディオが確保していた銀を、彼らから引き剥がすためであったとも言われる。コカの消費は植民地時代、インカによって統制されていた時代に比べて40~50倍にまで拡大したといわれているが、植民地当局が異教の儀礼との関連性や健康的な配慮からしばしば禁制の対象としたにもかかわらず、「必要悪」コカの葉は蔓延していった。1565年当時、クスコのスペイン人市民のうち3分の2がコカの取り引きにかかわっていたともいわれる。ある役人はコカはインディオから彼らの銀を引き離す磁石であるといっている。<網野徹哉他『ラテンアメリカ文明の興亡』世界の歴史18 1997 中央公論社 p.137-138>

麻薬コカイン

 コカの木はアンデス山地で自生する灌木で、その葉を噛むと脳内に濃度の高いドーパミンが分泌され、陶酔作用に陥る。インディオの間では2000年も前からその効力が知られており、コカの木は霊力があるものとして崇拝されていた。スペイン人によってヨーロッパにも知られるようになると広く用いられるようになり、19世紀のアメリカ南部ではプランテーション経営者は黒人奴隷の食事にコカをまぜて与えて苦役から解放される幻想を与えた。1855年にはコカからアルカロイドが分離され、3年後にはコカインと名付けられ、麻酔薬や鎮痛剤として用いられるようになった。ウィーンの精神分析医フロイトもコカインを研究し、自らも常用した。しかし次第に中毒性があることが問題視され、フロイトも友人がコカインの過剰摂取で鬱病の発作を起こして死んだことからコカインを断ったという。一旦麻薬として出回り始めたコカインは、現在も闇社会で流通し、毎年のように死亡者を出している。ナチスドイツのゲーリングもコカイン中毒者だった。<ビル・ローズ『同上書』 p.70-75>
コカ戦争  アメリカで麻薬として密売されていたコカインはボリビアの農村で栽培されるコカを原料とし、ボリビアの軍事政権がアメリカのギャングと手を結び、その資金源として密輸していた。しかしその蔓延に手を焼いたアメリカは、1990年代に米軍のヘリコプターを派遣してコカ畑を焼き払うという強硬策に出た。時のボリビア政府は親米政策をとっていたが、このことに農民が反発して反米運動が激化し、モラレス左派政権が生まれるきっかけとなった。これはコカ戦争と言われた。現在は、コカはマテ茶の原料として栽培されている。

Episode コカとコーラが合体

 1886年、アトランタの薬剤師ジョン=ペンバートンはコカの葉を赤ワインに6ヶ月浸して売り出し、爆発的に売れた。しかし、アトランタでアルコールが禁止されたため、ノンアルコール飲料をつくろうと考えた。そのころアフリカ原産のコーラナッツが知られるようになった。コーラナッツ kola nut はアフリカのナイジェリアでヨルバ族が宗教儀式の時に用いていたもので、コーラの木の実にアルカロイドであるカフェインが約2%含まれ、他に強心作用などもあるものだった。コーラエキスを使った飲料はノンアルコールドリンクとして紅茶やコーヒーと拮抗する可能性があった。
 ペンバートンはコカの木の葉のエキスとコーラナッツから抽出したカフェインを含むノンアルコール飲料を作り、コカ・コーラ(Coca Cola)を売り出した。ペンバートンは商才はなかったらしく、そのレシピはまもなくエイサ=チャンドラーという実業家に売却され、チャンドラーの手で世界で最も有名なブランドとなり、世界最大の飲料メーカーに成長した。発売当初に含まれていたコカインの成分は現在では含まれていないが、コカインよりも欲求を抑えにくい成分、つまり砂糖が加えられている。<ビル・ローズ『同上書』 p.73-74>

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