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アメリカ大陸原産の作物

トウモロコシ、ジャガイモなど世界の主要な農作物の中でアメリカ大陸原産の種が多数ある。サツマイモ、トウガラシ、トマト、タバコなども南米原産で現在は世界中で栽培されている。

 大航海時代の1492年、コロンブスアメリカ大陸に到達してから、いわゆるユーラシア旧大陸とアメリカ新大陸の間に交流が始まった。それはヨーロッパ諸国による征服と植民地化という一方的なものであって、スペインを初めとする絶対王政下の諸国に巨大な富をもたらすとともに、新大陸側はその搾取にさらされ、文明の破壊と人口減少という負の側面が大きかった。
 同時にこの新たな交流は、さまざまなモノの交流を伴うこととなった。その中で、それまでの旧大陸では知られていなかった栽培植物がもたらされ、新たな食糧源として利用されるようになった。その代表的なものに、ジャガイモトウモロコシサツマイモトマトトウガラシ、カボチャ、落花生などの農作物、タバココカ、カカオなどの薬草、嗜好品の原料となった植物である。
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トウモロコシとジャガイモ

 アメリカ大陸原産の農作物の中では特にトウモロコシ、ジャガイモなどはインディオの生活を支え、彼らが生み出した文明の基盤となっていた。それが大航海時代に ヨーロッパにもたらされ、さらにその植民地となったアフリカやアジアの地域に広がり、現代の世界において、欠くことのできない食料源となっている。
 トウモロコシは紀元前1500年ごろメソアメリカ文明以来、メキシコで栽培され、アステカ文明を支えていた。しかし、アステカ王国1521年にスペインのコルテスによって滅ぼされた。ジャガイモはアンデス高地(現在のペルー)が原産地で、高地の山岳地帯で早くから栽培されの人々の生活を支えアンデス文明を成立させていた。彼らはこれらの作物栽培を基盤として階層社会を形成し、1200年ごろにインカ文明が形成され、15世紀ごろにインカ帝国が最盛期を迎えた。しかし、16世紀に始まったスペイン人のアメリカ大陸内陸への侵攻のなかでピサロによって征服され、1533年に滅亡した。こうしてスペインの植民地となったラテンアメリカからは、金・銀などの資源とともに、ジャガイモとトウモロコシなどの植物の栽培がスペインを通じてヨーロッパにもたらされることとなった。

コカとゴム

 またインディオの生活の中で自然に用いられていたタバコやコカは、医薬品や嗜好品としてもヨーロッパで使われるようになり、特にタバコは嗜好品として世界中に広がったが、現在は健康への悪影響が問題になっている。コカは本来のインカ文明においては神事に欠かせない神聖なもので、飛脚(チャスキ)館が元気を取り戻す活性剤として用いられていたが、ヨーロッパに伝えられるとその陶酔を催す力が始めは麻酔剤として利用されるようになった。しかし中毒性があるところから次第に覚醒剤(麻薬)コカインの原料として悪用されるようになった。
 ゴムは食物ではないが、やはりアメリカ大陸(西インド諸島)が原産で、コロンブスが二度目の航海の時の1493年に、西インド諸島エスパニョーラ島(現在のハイチ)でヨーロッパ人として初めてインディオがゴムのボールで遊んでいるのを見た。ゴムの木の樹液からできるラテックスは様々な用途に利用されることが明らかとなり、原産地の一つブラジルからスリランカやマレー半島にもたらされ、イギリス植民地経営の重要産物とされた。そして20世紀の初め、自動車の大量生産が始まると共にタイヤの原料として急速に需要が高まった。

新大陸に持ち込まれたもの

 コロンブス以前の新大陸を含む地球の西半球には、旧大陸で知られていなかった多くの動植物が独自の進化を遂げていた。そのうち、ジャガイモやトウモロコシなど栽培作物がが人間の手によってヨーロッパにもたらされた。同時に新大陸文明にないものとして牛・馬・羊という家畜とともに鉄器・車輪・火薬などの人工物が、新大陸に持ち込まれることとなった。新大陸で知られていなかった栽培作物で、ヨーロッパ人が持ち込んだものには、小麦(メソポタミア原産か)とサトウキビ(東南アジア原産か)、コーヒー(エチオピア原産か)などがある。

「コロンブス交換」

 これら大航海時代の新大陸(西半球)と旧大陸(東半球)のモノの移動は、コロンブスの新大陸到達をきっかけに始まったところから「コロンブス交換」といわれている。それは単にものの交換ではなく、双方の世界における自然界の生態系を変化させ、人間界の社会・文明に強い影響を与え、世界史を大きく塗り替えることとなった。
感染症の広がり この「コロンブス交換」には、文明の交換にとどまらず、人の移動によって感染症が双方の世界に広がったことが含まれている。旧世界からはインフルエンザや天然痘、14~16世紀に猛威をふるっていたペストが新大陸にもたらされた。これらスペイン人によってもたらされた感染症は免疫のなかったインディオの多くの命を奪った。その一方、梅毒は新大陸だけの感染症であったが、このときヨーロッパに持ち込まれ、大航海時代の船乗りによって世界各地に拡散したと考えられている。
 「コロンブス交換」は、決して等価交換であったのではなく、ヨーロッパ人による植民地化の過程で起こったことであり、征服の代償としてヨーロッパ側が支払った犠牲は多くはない。それよりも、ヨーロッパ文明が圧倒的な力でおよぼされ、キリスト教化とスペイン語・ポルトガル語によって新大陸の精神文化が絶滅したことが厳然たる事実である。また16世紀から本格化するヨーロッパ諸国の黒人奴隷貿易によってアフリカから黒人の大量移動があったことも考えれば、「コロンブス交換」という言葉は皮肉な言い方であることが判る。

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書籍案内

高野 潤
『新大陸が生んだ食物』
トウモロコシ・ジャガイモ・とうがらし
2015 中公新書

酒井伸雄
『文明を変えた植物たち』
コロンブスが遺した種子
2011 NHKブックス