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グリーンランド

北米大陸の東北の南北に長い世界最大の島。ノルマン人が進出し、西海岸にはタラ漁の拠点として栄えた。ノルウェー領となったが、14世紀末からデンマークとなり、現在も続いている。冷戦時代は北極海をはさんでソ連と向かいあっているため、アメリカは軍事的に重視した。

グリーンランド

グリーンランド Google Mapで作成

 グリーンランドは北米大陸の北東に南北に横たわる面積約217万平方キロの、世界最大の島である。80%が氷に覆われているため、島全体が低くなっているという。人口は3万足らずであるが、ほとんどの人は南部の漁業中心の居住区に住む。現在はデンマークの主権のもとに、自治政府が統治している。先住民はカナダなどと同じイヌイットであったが、10世紀頃からスカンディナヴィア半島の西岸のフィヨルドを拠点としたヴァイキングアイスランドを経て移住し、酪農などを営なむようになった。

樹木がないのに「緑の島」

 グリーンランドの発見者は「赤毛のエリク」である。彼の父は人を殺したのでノルウェーの西南部からアイスランドに移住してきたが、エリクもまた同じ理由でアイスランドを追放され、グリーンランドの東南海岸沿いに南下し、南端のフェアウェル岬を迂回して西海岸のエリク島でひと冬を過ごし、西南海岸のフィヨルドに入りその奥に上陸した。その地はグリーンランドで最も肥沃な土地であった。エリクはアイスランドに戻り、新しい土地を「緑の島」(アイスランド語でグリュンランド)という魅力的な名前で呼び、アイスランド(「氷の島」)の島民に移住を勧めた。グリーンランドこそアイスランドで、樹木などない。986年に25隻に男女が乗り組み、グリーンランドに向かったが、嵐に遭い、わずか14人が到着したにとどまった。この最初の入植地はプラッターリズ(急斜面という意味)と名づけられ、「東植民地」の中心地となった。後に西海岸の北極圏近くに「西植民地」が設けられた。<荒正人『ヴァイキング』1968 中公新書 p.21>

ヴァイキングの子孫の末路

 1000年頃、レイフ=エリクソン(アメリカ大陸に到達した人物)によってグリーンランドにキリスト教が伝えられ、教会堂が建てられ、聖職者もやってきた。その間、かなり多くのヴァイキングが移住し、特産の「せいうち」の牙を求めて海に乗り出した。セイウチの牙は、イスラーム勢力の進出によって地中海貿易が衰えたためアフリカの象牙がヨーロッパに入ってこなくなったための代用品として需用が高くなっていた。
 1262年以降、グリーンランドはノルウェーの支配を受けるようになった。それは特産のセイウチの牙を運ぶ船の保護のためノルウェーの大型帆船に提供してもらう必要があり、その統治を承認したからだった。ノルウェーはグリーンランドの産物を独占しようとしてアイスランドとの貿易を禁止した。しかし、ノルウェーの貿易はその重点がアフリカの象牙やロシアの毛皮などに移ると、グリーンランドは見捨てられることとなり、1410年からは大型帆船がやってこなくなってしまった。そのころから気候も悪化し初め、残されたヴァイキングの子孫たちは次第に数を減らしていった。やがてエスキモーが北部から南下してきて、たびたび争うようになり、少数のヴァイキングの子孫たちは敗れ去り、ほとんど絶滅してしまった。現在は教会の建物の跡などが彼らの存在を伝えているだけである。<荒正人『ヴァイキング』1968 中公新書 p.25-28>

Episode ヴァイキングの子孫の絶滅

 ヴァイキングの船は甲板のないクナール船やロングシップであったので、13世紀ごろからヨーロッパ全体の気候の寒冷化により流氷の南下が増えるなどの悪条件が強まり、次第にアイスランドやグリーンランドとの行き来ができなくなっていった。グリーンランドの氷床コアを分析すると1343年から1362年の20年間ははるかに寒い夏が続いたことがわかる。ニパートソックというところに残された彼らの生活した農園を発掘すると、牛小屋には5頭分の牛の骨が出てきたが、おそらく酪農の用の牛を最後に食べ尽くしたものと思われる。また室内には犬の骨が散らばっており、狩猟用の犬も切り刻んで食べたらしい。
(引用)家の中に人骨はなかった。生存者に体力がなかったために埋められなかった遺体もなければ、埋める人がもう誰も残っていなかった最後の一人の遺体もない。食料部屋にアザラシの肉がわずかに残るばかりとなり、ニパートソックの農民はとにかくここを去ろうと決心したのかもしれいない。彼らがどこでどのような最期を遂げたのかは、誰にもわからない。そこから数キロ先に住んでいた隣人のイヌイットから、回転式離頭銛などの伝統的な氷上の狩猟技術を学んでいれば、ワモンアザラシを一年中捕獲することはできたし、恵まれた年ですら彼らを脅かしていた晩春の危機を避けられたかもしれない。おそらくイヌイットの未開人じみたやり方に嫌悪感を抱いていたのだろう。あるいは、彼らの文化的な帰属意識や考え方があまりにもヨーロッパに強く根ざしていて、そういうやり方になじめなかったのかもしれない。<ブライアン=フェイガン/東郷えりか他訳『歴史を変えた気候大変動』2009 河出文庫 p.134>

バスク人やイングランド人の渡来 

 グリーンランド西海岸のスカンディナヴィア人が絶滅したのに代わって、グリーンランドに進出してきたのはバスク人やイングランド人だった。かれらはスカンディナヴィア人のようなクナール船ではなく、船隊の骨組みに外板を張った二本から三本の檣(マスト)を持つ外洋船であるドッガー船をあやつった。それは北海南部のドッガー・バンクでのタラ漁で使われていたもので、次第にタラの漁場を求めてアイスランドからグリーンランド沿岸に進出してきた。

Episode 「海の牛肉」タラを求めて

 タラはローマ時代から食べられていたが、8世紀ごろからヨーロッパでニシンと共に巨大な市場を作るようになっていた。カトリック教会ではキリストが磔刑になった金曜日や、四旬節の40日間などの祭日には断食をすすめ、性交を禁じていて、赤肉など熱い食べ物も食べてはいけないとされていたが、魚や鯨の肉は海でとれる「冷たい」食べ物なので食べても良いと認められた。魚は普通、腐ってしまうがタラは塩漬けにして乾燥させれば日持ちするので大量の輸送もでき、貴重な食材としてひろがったのだ。塩漬けのタラは大航海時代のヨーロッパ人のエネルギー源となり、エリザベス朝時代の船乗りには「海の牛肉」として知られていた。陸上でも塩漬けタラをビールやリンゴ酒、マディラ・ワインで胃に流し込むのが普通だった。そこでタラは金よりも価値がある物資として何世紀もの間ヨーロッパの国々の漁業を支えていた<ブライアン=フェイガン/東郷えりか他訳『歴史を変えた気候大変動』2009 河出文庫 p.136-137>
 ところが1410年にベルゲンを支配したハンザ同盟がノルウェー沖漁場のタラ漁から外国船を締め出してしまったため、イングランドやバスクの漁民は、新たな漁場を求めて、アイスランドやグリーンランド沿岸へと出て行かざるを得なくなった。彼らはそのころ豊富な木材を利用して、船隊の骨組みに外板・甲板を付け、2~3本のマストを持つ帆船ドッガー船を作り、遠洋を航海可能にしていた。特にイングランドのブリストルはアイスランドのタラ漁場とフランス南西部やスペインのワインの産地との中間にあったので、貿易港として栄えるようになった。

デンマーク領となった経緯

 グリーンランドに入植したのはノルウェー人であったが、14世紀末(1397年)にノルウェーがデンマークと同君王国(カルマル同盟)となってからは、デンマークが当時の強国であったのでその領土となった。16~18世紀はデンマークによる探検、入植、キリスト教(ルター派プロテスタント)の布教が行われた。
 ノルウェー独立(1905年)後はグリーンランドの帰属問題が起こったが、第一次世界大戦後、国際連盟の調停でデンマーク領と確定した(1933年)。第二次世界大戦後の冷戦下で、北極海を隔ててソ連と相対する位置にあるところから戦略上の重要度が増し、デンマークがNATOに加盟したため、1951年にアメリカとデンマークの間でグリーンラド防衛協定が成立し、アメリカ軍が基地を設置している。なお、1979年に自治政府が設置されたが、主権は依然としてデンマークが確保している。 → 現代のデンマーク

NewS トランプ、グリーンランド買収の意向

 2019年8月20日のNHK.TVニュースはアメリカのトランプ大統領がデンマークの自治領グリーンランドをアメリカが買収することに関心を持っていることを明らかにしたと報じた。さすがに不動産王、目の付け所がすごい、と驚いたが、はたして実現の可能性はあるのか。トランプは「買収した際の資源や地政学的な利点について検討するよう側近に指示した」というが地政学的な利点とは、言うまでもなくロシアに対する戦略的な好立地を言う。北極海を挟んでロシアを威圧できるからだ。
 トランプは18日、記者団に対し「戦略的に魅力的だし、関心はある。最重要課題ではないが、デンマーク政府と話をしてみる」と述べたが、デンマーク政府は「グリーンランドは売りに出ていない」という声明を出すなど、グリーンランドが買収されることを一貫して否定しており、ロシアやカナダ、NATO諸国は反発するだろうから、実現は困難であろう。
 その後の報道によると、アメリカは1946年にも買収を持ちかけたが不成立だったという。今回もデンマークのフレデリクソン首相は「ばかげている」と一蹴した。現実離れした買収話のように見えるが、アメリカにとって、北米に親中国国家が誕生するかも知れないという危機感を持っている。というのは、元々グリーンランドにはデンマークからの独立の動きがあり、そこに来て近年の温暖化で氷が溶け資源開発がしやすくなるという変化が生じている。自治政府は中心のヌークなどの飛行場の拡充などをデンマーク政府に働きかけたが、デンマーク政府はグリーンランド開発に消極的であるため、自治政府は中国に協力を求めた。中国は乗り気で投資を約束、慌てたデンマークも急きょ出資を決めたが自治政府の不信感は強まっており、中国との関係を深めている。アメリカは島北部のチューレに基地を置き北極海を睨み、米本土に飛んでくる大陸間弾道ミサイルを検知するレーダーを装備して防衛拠点としているので、グリーンランドが仮に独立して親中国国家となったら大きな打撃となる。それが、今回のトランプのグリーランド買収発言の背景だった。<『朝日新聞』3019/8/26朝刊記事による>
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書籍案内
ヴァイキング表紙
荒正人
『ヴァイキング―世界史を変えた海の戦士』
1968 中公新書

ブライアン=フェイガン
東郷えりか・桃井緑美子訳
『歴史を変えた気候大変動』
2009 河出文庫