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日朝貿易

室町時代の日本と朝鮮王朝との貿易。朝貢貿易とともに民間貿易も認め、14世紀末から一時期の中断をのぞき、16世紀まで続いた。

 李成桂朝鮮建国に伴い、倭寇禁圧を日本に要求、当時南北朝を合一(朝鮮王朝の成立と同じ1392年)させ、統一権力を握った室町幕府の足利義満もそれに応えたので、倭寇(前期倭寇)の活動は急速にやんだ。こうして14世紀末から約1世紀間、日朝貿易が展開された。日本側では対馬の宗氏が幕府に代わってその統制にあたった。朝鮮には日本の使節を接待するためと貿易のために倭館が三浦(さんぽ=富山浦・乃而浦・塩浦)におかれた。

日明貿易との違い

 当時、明朝は厳しい海禁(民間貿易と海外渡航禁止)をかかげ、朝貢貿易しか認めていなかったので、日明貿易は自由な貿易ではなく朝貢貿易の一種である勘合貿易という形式をとっていた。
 しかし、朝鮮は朝貢貿易(使送倭船・客倭)のほか民間貿易(興利倭船・商倭)も認め、大名や国人(土着の有力武士)、商人たちにも広く貿易を認めた。この点は日明貿易と日朝貿易の大きな相違点である。その背景には長年倭寇の跳梁に悩まされていた苦い経験があり、倭寇が日本の国人・商人たちのもう一つの顔であることを見抜いており、彼らに正式な貿易を認めれば倭寇の活動も沈静化できると考えたのである。朝鮮は富山浦などに倭館を置いて日本人商人の来航を認めたが、次第に統制を強めたため、1510年に三浦の乱がおき、再び倭寇の活動が激しくなっていく。

日朝間の外交関係

応永の外寇 勘合貿易が開始されて倭寇の取り締まりも行われたが、義満が1408年に死去すると、次の将軍義持は朝貢形式の貿易を嫌い、勘合貿易を中止した。そのため倭寇が活発となり、再び朝鮮の海岸を襲撃するようになった。朝鮮では世宗の代となっていたが、前国王として実権を握っていた太宗は、倭寇の根拠地となっていた対馬を1419年6月20日に襲撃した。これは日本側では応永の外寇と言われている。上陸した朝鮮軍は民家や船を焼き、百名以上の島民を殺した。しかし朝鮮側も島民との戦いで百人以上の兵を失い、7月3日に撤退した。これによって日本と朝鮮の国交は一時中断したが、その後まもなく勘合貿易も修復され、15世紀の間、続くこととなる。
 このとき、朝鮮王朝側には対馬は「もとこれ我が国の地なり」という意識があったという。応永の外寇(朝鮮では己亥東征という)の後、朝鮮は対馬島主宗氏に対し、島民あげて朝鮮に投降・移住するか、さもなくば日本本土に引き揚げるよう迫った。これに対し宗氏側は降伏の使者を立て翌年までに対馬を朝鮮の州郡とすることを申し出ている。しかし、1421年4月宗氏は一転して朝鮮帰属化を拒絶、結局宗氏に形式的な服属の証として「印信」(印章)を授けることで決着した。<桜井英治『室町人の精神』日本の歴史12 2001 講談社 p.100>
三浦の乱 16世紀にはいると朝鮮王朝の貿易統制が強まり、それに反発した富山浦・乃而浦・塩浦の三浦(さんぽ)の倭館に居留していた日本人が1510年に反乱を起こし、三浦の乱といわれた。これによって日朝貿易は衰え、後期倭寇が活発となる。

日朝貿易の貿易品

 日本からの輸出品は、銅、硫黄などと、琉球王国から得た南海の産物である胡椒、薬種、蘇木(赤色染料をとる蘇芳(すおう)の木、香木など。輸入品は綿布、木綿、朝鮮人参、経典(印刷された大蔵経)などが主であった。日本に木綿が伝わったのもこのころ朝鮮を通じてであった。

Episode 高麗版大蔵経を求めた偽ものの使者

 朝鮮王朝との朝貢貿易を行った日本が、朝鮮国王からの下賜品(回賜品)の中で最も好まれたのが高麗版大蔵経であった。室町将軍をはじめ大名たちにとって垂涎の的であり、14世紀末から16世紀前半にかけて50部以上の大蔵経が日本に渡ったことが確認されている。朝鮮は当初、日本側の要求に応じていたが、15世紀後半になると大蔵経の印本が減少し、しだいに出し渋るようになった。すると、大名や琉球国王などの名を騙って大蔵経を入手しようとする偽使が横行するようになった。15世紀後半、琉球国王は6度にわたり朝鮮に入貢しているが、そのうち4度は偽使で、2度まんまと大蔵経を手にいれている。1482年に夷千島(えぞちしま)王遐叉(かさ)の使者と称する宮内卿という者が、「日本国王」足利義政の使者栄弘首座とともに漢城に入り朝貢した。このとき朝鮮側は日本国王の使者には大蔵経を下賜したが、夷千島王の使者には下賜しなかった。こちらは偽使であることが見破られたのだった。この夷千島王の使者は、蝦夷地と本州の交易に関わっていた津軽安東氏が日本国王使の派遣に合わせて送り込んだのだろう、と考えられている。<桜井英治『室町人の精神』日本の歴史12 2001 講談社 p.106>
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桜井英治
『室町人の精神』
日本の歴史12
初刊2001 講談社学術文庫