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ミマーリ=シナン(ミマール=スィナン)

オスマン帝国のスレイマン1世時代に活躍した建築家。代表的な業績はスレイマン=モスクの建設である。

 ミマール=シナンとも表記。オスマン帝国の全盛期、16世紀のスレイマン1世の時代に活躍した宮廷の主任建築官で、帝のもとでスレイマン=モスクなど多数のモスク建設を手がけた。
 シナンは、ギリシア系のキリスト教徒の家に生まれ、若くしてデウシルメによってイェニチェリとなり、スレイマンに従って各地を転戦しながら、架橋や陣地構築技術を身につけ、50歳を過ぎてから、スレイマン1世の悲願であったハギア=ソフィア聖堂を凌駕する規模のモスクの建築に取り組み、1557年に完成させた。そのほか、数多くのモスク建設や水道建設にあたり、オスマン帝国時代の技術水準の高さを示す建築を残している。 → トルコ=イスラーム文化

Episode 百歳まで生きて81のモスクを手がけた建築家

(引用)シナンの出自はギリシア系キリスト教徒であったといわれている。1494年から99年頃の間に、小アジアのカイセリの近くで生まれたらしい。当時のトルコでは、ギリシア系住民の子弟から特にすぐれた人材を登用し、イスラム教に改宗させて徴用する制度があった。その中核が、イェニチェリと呼ばれる、スルタン直属のエリート軍団であった。シナンはそのイェニチェリの中で、技術将校として才能を発揮し、スレイマン1世に認められ、宮廷の主任建築官にまでなった。百歳という長い寿命のなかで、81の大規模なモスク、50の小規模なモスク、55の学校、19の墳墓、32の宮殿、22の公衆浴場などを建てたといわれている。首都におけるシナンの代表作といえるモスクが、シュレイマニエ・ジャミイ(一般にスレイマン=モスク)である。1550年に着工、1557年に完成した。<浅野和生『イスタンブールの大聖堂』2003 中公新書 p.198>

小説『シナン』

 夢枕獏が1999~2002年まで、雑誌『中央公論』に連載した『シナン』は、珍しく日本でオスマン帝国時代の人物が主人公とされた歴史小説である。主人公シナンを主人公としてスレイマン時代のオスマン帝国を描いており、筆者がよく勉強していることのわかる小説である。もちろん小説であるので、狂言回し役のハッサンなど創作された人物も登場するが、スレイマン、大宰相イブラヒム、妃ロクセラーヌなどオスマン帝国の宮廷の生々しい陰謀事件などが描かれている。また、同時代のミケランジェロを登場させ、ヴェネツィアでシナンと合わせているのも現実ではないだろうが、あり得たかも知れない。
 話の本当の主人公はハギア=ソフィア聖堂かも知れない。コンスタンティノープルを征服したオスマン帝国はハギア=ソフィア聖堂をモスクに造り替えたが、それを上回る大建築をつくることはできず、宮廷の中にビザンツ文化に対するコンプレックスが続いていた。キリスト教徒だったシナンがデウシルメによってイエニチェリにされ、その才能を認めたスレイマンの願望を叶えるべく、ハギア=ソフィアを凌ぐ大モスクを建設する、というのが話の眼目だからだ。
 デウシルメ、イエニチェリ、兄弟殺しなどのオスマン帝国特有の歴史用語の勉強にも成る。小説であるので、スレイマン=モスクの建造技術についての記述はあっさりしているが、オスマン帝国の歴史と文化に興味を持って取りかかるには手頃である。<夢枕獏『シナン』上・下 2003 中公文庫>
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書籍案内

浅野和生
『イスタンブールの大聖堂』
2003 中公新書

夢枕獏
『シナン 上』
2007 中公文庫

夢枕獏
『シナン 下』
2007 中公文庫