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ゴイセン/ヘーゼン

オランダにおけるカルヴァン派の新教徒を言う。乞食党を意味し、オランダ語ではヘーゼンと表記するのが正しい。

 宗教改革期のネーデルラント(低地諸州)におけるカルヴァン派の新教徒の党派こと。ゴイセン(Geusen、正しくはヘーゼン)とは「乞食」の意味。スペインがカトリック信仰を強要し、カルヴァン派などを異端として取り締まる宗教政策を強めたことを批判したネーデルラントの下級貴族(盟約貴族という)たちは、1566年4月にブリュッセルの中央政庁に対し請願行動を行った。彼らスペインの執政側が乞食と呼んだので、彼らも自らを「乞食党(ヘーゼン)」というようになった。

オランダ独立戦争の開始

 下級貴族の運動は民衆に拡がり、同年8月には各地のカルヴァン派信者がカトリック教会に押しかけ聖人の彫像や聖画を破壊する「聖画像破壊」が始まった。しかしこの運動は上級貴族のオラニエ公ウィレムが沈静化を図り、翌年までには収まった。
 ところが1567年、スペインのフェリペ2世は、より強硬なアルバ公に約1万の軍隊を付けて派遣、前年の騒乱の参加者を次々と捕らえ、およそ1100人を処刑するという挙に出た。オラニエ公ウィレムも全所領を没収され、ついに1568年春、スペインに対する武装蜂起を開始した。これがオランダ独立戦争(八十年戦争)の始まりだった。

海乞食の活躍

 オラニエ公ウィレムの挙兵は各地で敗れ、当初は成果を上げられなかった。そのようなとき、低地諸州から逃れて海上生活に活路を見出した人々がスペイン王に抵抗し、商船や漁船に対する海賊行為が始まり、彼ら無統制な亡命者たちは「海乞食党」(watergeuzen 、ワーテルヘーゼン)と呼ばれた。オラニエ公は彼らに信任状を交付して「私拿捕船」としての大義名分を与えた。私拿捕船とは君主や国家から、交戦中の敵国船を襲撃し、積荷を奪うことを認められた船のことである。
 1572年にはオラニエ公は低地諸州への同時侵攻を計画、海乞食党もそれに加えた。しかし、当時イングランド南岸の諸港を拠点にしていた海乞食党に対して、アルバ工に取り締まりを要請されていたエリザベス1世が退去を命じたため、彼らは拠点を失い、オラニエ公の出撃命令が出る前に海上に放り出されてしまった。4月1日、風向きに流され、マース川河口のホラント州の港町ブリレに入り、降伏を勧告したが拒否されたため上陸し、占領した。不在だったスペイン軍が戻り、市を包囲されると、周りの干拓地(ポルダー)の水門を開けて水を溢れさせスペイン軍を追い払った。この勝利によって、ホラント州の他の市も順次、海乞食党に対して市門を開いていった。

乞食党(ヘーゼン)への一本化

 この海乞食党の勝利がオランダ独立戦争の勝利への転換点となった。その頃フランスではサンバルテルミの虐殺事件が起きており、オランダでもオラニエ公はカルヴァン派との結束を固め、海乞食党を各州の海軍に加えることとした。そのため、海乞食党の名は消滅し、以後「乞食党」の名がスペイン政府に反抗する人々の総称となった。さらに宗教的分極化が進むと、最終的にはヘーゼン=カルヴァン派となる。<桜田美津夫『物語オランダの歴史』2017 中公新書 p.17-27> → オランダ独立戦争
注意 ゴイセンは誤り。正しくはヘーゼン。 日本では、Geusen をゴイセンと読むのが一般的であるが、これは誤読である。ドイツ語読みのゴイゼンが訛ったもの。オランダのことなのでオランダ語の発音に従うのが正しいが、それはヘーゼンである。ゴイセンと呼んで平然としていてはいけません。

Episode 「殿下、ただの物乞いに過ぎません」

 1566年、フェリペ2世の宗教迫害に抗議した下級貴族約400人が、ブリュッセルの宮廷の執政マルガリータ(オランダ語ではマルハレータ。フェリペ2世の異母姉)に請願書を提出した。
(引用)下級貴族たちは、宗教問題を討議するための全国議会の開催、異端取り締まりの中止の二つを求めていた。この前代未聞の示威行動に動転していた執政マルハレータを落ち着かせようとして、財務評議会議長のベルレモンは彼女の耳元でこう囁いた。
 怖がらないでください、殿下。ただの物乞いどもにすぎません。
 数日後の宴会で、盟約貴族らはその「物乞い」(オランダ語で geuzen と綴りヘーゼンと発音する)を自らの党派名とすることを決議し、「国王万歳!乞食党万歳!」と何度も唱和した。彼らは以後、托鉢修道士の乞食鉢と乞食袋を党派のシンボルとして用いることになる。<桜田美津夫『物語オランダの歴史』2017 中公新書 p.17>

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書籍案内

桜田美津夫
『物語オランダの歴史
大航海時代から「寛容」国家の現代まで』
2017 中公新書