アレキサンダー＝ハミルトン（1755-1804）はアメリカ独立戦争ではワシントンの副官として活躍。独立宣言の後、１３の共和国の緩やかな連合でいくか、統一的な憲法の下で強固な連邦政府を樹立するかで、ジェファソンらと意見が対立したが、ハミルトンは憲法の制定と連邦政府の樹立を主張し、憲法制定会議の開催を提案した。

生い立ちと人物

(引用)アレクサンダー・ハミルトンは１７５５年に西インド諸島の一つネヴィス島で、貴族出身のスコットランド人商人の庶子として生まれた。父親は一種の流れ者であったようで、やがて母子を置いて失踪してしまう。その母親も彼が１３歳の時に死に、孤児となる。こうした苦労を重ねたからであろう、かえって燃えるような野心を抱くようになった。明晰な頭脳をもちながら、同時に向こう見ずで情熱家で短気で、発言にとげがある。富と権力にあこがれ凡庸な一般大衆を軽蔑しながら、黒人に対し偏見を抱かないなど進歩的な面も持ち合わせていた。同時代の人物のなかで、ハミルトンほど華麗で才能にあふれたものはいなかった。＜阿川尚之『憲法で読むアメリカ史』2013　ちくま学芸文庫　p.41＞

憲法制定会議、連邦派を主導

　１７７３年にニューヨークに行きキングス・カレッジ（現在のコロンビア大学）に進学、独立戦争が始まると志願し、２２歳でワシントン将軍の副官となり、ヨークタウンの戦いで英雄的な活躍を示す。戦後、ロイヤーとして成功、憲法制定会議の開催をマディスンとともに計画・実行した。
　１７８７年５月２５日に開催された憲法制定会議では、連邦派（フェデラリスト）の中心人物として活躍、９月にアメリカ合衆国憲法採択に大きな役割を果たした。憲法制定会議では連邦政府の設立に反対するアンチ＝フェデラリスト（反連邦派）に対する説得のために、ジョン＝ジェイ、マディソンとともに『ザ・フェデラリスト』を著し、連邦派の理論的指導者となった。ニューヨークの代表としてだだ一人憲法草案に署名した。

初代財務長官に就任

　合衆国憲法が各州の批准を受けて発効し、１７８９年にアメリカ合衆国の初代大統領ワシントンが選出されて新政府が発足すると、ハミルトンは初代の財務長官に任命され、連邦政府の財源の確保のために税制を整備するなど、終始連邦政府の強化に努めた。１７９１年、ハミルトンが国家財政基盤を確立するため国立銀行設置を提案すると、それを機に反対派のジェファソンらはリパブリカン党（共和派）を結成した。それに対してハミルトンらはフェデラリスト党と言われるようになり、次第に政党の性格を持つようになる。ワシントン政権内部のハミルトンとジェファソンの対立は次第に深刻となり、１７９５年にハミルトンは財務長官を辞任した。
　ハミルトンは、アメリカを単なる州の連合体ではなく、一つのまとまりのある統一国家となったことに強い影響力を持っており、それはその後のアメリカ合衆国が国際社会で大国となっていくという方向性を定めたと言うことができる。その生涯にはスキャンダルもあり、最後は政敵との決闘で死ぬという波乱に富んだ生涯であったが、アメリカ合衆国の建国に功績のあった人物のひとりとされ、現行のアメリカ合衆国１０ドル紙幣にはその肖像が用いられている。
ミュージカル『ハミルトン』　２０１５年、ブロードウェーのミュージカル『ハミルトン』が上演され、大当たりした。歴史物というジャンルにもかかわらず、白人だけでなく黒人やラテン系の俳優をキャスティングした舞台はニューヨークで話題となり、アメリカ各地でも上演された。アメリカでは青少年が建国期の歴史に興味を持つようになった、と評価され多くの学生に観劇券が割引で配られた。また翌年の大統領選挙で当選したトランプの人種差別的な言動への批判があるとして、トランプは『ハミルトン』の観劇をボイコットしたという（wikipediaの情報）。アメリカでは大きな話題となった『ハミルトン』だが、日本ではほとんど話題にされることはなく、観る機会は今のところない。ハミルトンがどんなふうに描かれているのか、観てみたいものだが。

Episode　決闘で死んだハミルトン

　１８０４年７月１１日、ハドソン川の堤防上でアメリカの政治家同士の二人がピストルによる決闘を行った。その一人がフェデラリストの大物ハミルトン、一人はリパブリカンからフェデラリストに転身して大統領になろうという野心をもったアーロン＝バー。ハミルトンがフェデラリストの集会で、バーを好ましからざる人物として非難したことに対し、バーが決闘を申し込んだのだった。二人の決闘は立会人の見守る中で行われ、まずハミルトンが一発、しかし彼はわざと的をはずした。続いて放たれたバーの銃弾はハミルトンに命中し、翌日死んだ。世論は激しくバーを非難し、彼はワシントンから姿を消した。（その後ミシシッピに現れ、独立国を造る陰謀をたくらみ、捕らえられて裁判にかけられたが無罪になった。）