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万国電信連合/ITU

1865年、パリで設立された電信に関する国際的連合組織。現在の国連の専門機関、国際電気通信連合の前身とされている。

電気通信技術の発達

 19世紀の後半、急速に進んだ電気通信技術による各国間の協力を強めるための国際機関設立の動きが起こった。アメリカのモールスは、1837年に発明された電気を利用した通信機を用い、1844年5月にはワシントンからボルティモアまでの電線による通信に成功して実用化が始まった。1851年には、ドーヴァー海峡に海底電信ケーブルが敷設され、イギリス・ヨーロッパ間の電信が開通、さらに1866年、大西洋を越えてイギリスとアメリカが海底ケーブルで結ばた。ロンドン-東京間は1872(明治5)年に「電信」が交わされている。
 このような「電信」の普及を急がせた理由の一つは、1854年のクリミア戦争で予期せぬ台風に見舞われたイギリス・フランスの連合艦隊が大打撃を受け、気象予報の必要性といち早く情報を伝える通信技術の必要性が認識されたからだった。1858年には無線通信網を利用して各地の観測データを集め「天気図」が作られるようになった。<宮崎正勝『モノの世界史』2002 原書房 p.288> → グローバリゼーション

万国通信連合の結成

 19世紀前半に急速な電信の普及に合わせ、国境を越えた国際間の通信に関する取り決めが必要となった。最初の国際電信は、1849年にプロイセン王国とオーストリア帝国との間で結ばれた電信条約に基づいて行われたとされている。ついで1850年にオーストリア、プロイセン、バイエルン、ザクセンの4カ国でドイツ=オーストリア電信連合が結成され、続いて1855年にフランス、ベルギー、サルデーニャ、スペイン、スイスが加盟して西部欧州電信連合を発足させた。こうしてヨーロッパに2つの電信網が生まれ、その統合が課題となっていった。その結果、1865年5月17日に、パリで万国電信連合が発足しヨーロッパの電信網は統合された。万国電信連合は、世界最古の国際機関と見なされており、現在の国際連合の専門機関国際電気通信連合(ITU)の前身である。
 この万国電信連合は20カ国が加盟したが、イギリスは電信事業が民営であることから加盟が認められず、主導権はフランスが握った。民営事業の参加を認めるかどうかはその後も問題となったが、1971年のローマ会議(このとき日本はオブザーバー参加している)で、企業の無制限参加が認められた。1875年のサンクト・ペテルブルク会議では通信の秘密の保障が議題とされ、国家の安全保障上の通信の差し止めを可能にすることが認められた。

通信網の拡張

ベルの電話 アメリカのベルは電話機を発明し、1876年3月7日に特許を取得、その事業化に乗り出し、ウェスタン・ユニオン電信会社との激しい競争に勝ち抜き、1879年、電話事業の独占に成功、電話は急速に普及していった。電話網も敷設が進み、海底ケーブルを利用した大陸間電話も可能になっていくにともない、電信電話の国際ルール確立が急がれるようになった。
マルコーニの無線通信 マルコーニは1895年に無線通信の実験を行い、1901年には大西洋横断無線通信に成功した。こうして20世紀は無線通信の時代となったが、イギリスは世界中の植民地を無線通信で結ぶ通信網を作る一方、第三国への情報の漏洩の防止に努めるようになり、各国は無線通信技術の改良にしのぎを削るようになった。イギリスとイタリアはマルコーニの方式のみを利用したのに対し、ドイツは1903年にシーメンス社などが合併してベルリンにテレフンケン社設立、アメリカは独自にリー=ド=フォレストが無線技術を開発した。このような混乱を解決するため、1906年にベルリンで万国無線電信会議が開かれ(このときSOSを遭難信号とすることが採用された)、1908年には日本を含む30カ国が加盟して国際無線電信連合を発足させた。

国際電気通信連合が発足

 第二次世界大戦後の1947年、万国電信連合と国際無線電信連合が統合して、新たに国際電気通信連合 International Telecommunication Union ITU が発足し、国際連合の専門機関と位置づけられることになった。本部はスイスのジュネーヴに置かれている。加盟国は国連加盟国に加えてバチカンも含み193カ国。主な業務は通信の標準化であり、他に無線周波数の割り当て、国際電話のための国家間接続を可能にする調整など、郵便部門の万国郵便連合と同等の役割を担っている。ただし、国際衛星通信の調整はインテルサットが担っている。国際電気通信連合は国際機関であるが、最も特徴的なこととして、民間企業もセクターとして参加していることであり、現在700社以上がセクターメンバーとなっている。日本ではNTT、KDDI,NHK、日本民間放送連盟が指定されている。 → 日本ITU協会 ホームページ