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アスキス

20世紀初頭のイギリス自由党の政治家。改革を進める。第一次世界大戦勃発時のイギリス首相。

 アスキス Harbert Henry Asquith 1852-1928  19世紀初頭のイギリスの帝国主義時代の自由党に属する政治家で、1908~1916年の首相を務める。この間、国民保険法議会法の制定、アイルランド問題の解決など、積極的な改革を進めた。1914年に第一次世界大戦が勃発すると対独宣戦布告し、翌年挙国一致の連立内閣を組織したが、戦争指導のあり方で同じ自由党のロイド=ジョージなどと対立し、1916年に辞任した。大戦後、再び自由党党首となったが、その頃から自由党は労働党に押され、衰退した。

人民予算と議会法制定

 1908年4月に成立した自由党のアスキス内閣では、財務相のロイド=ジョージがドイツに対抗すべく軍艦建造を進める(建艦競争)とともに、主には労働者向けの老齢年金制度の導入などの社会改革も同時に進めようとした。そのためには必要な財源として、ロイド=ジョージは所得税、印紙税、相続税、土地税などの大幅増額を盛り込んだ予算案を作成、1909年4月に予算案を議会に提出した。それに対して地主貴族(ジェントルマン)など上層中産階級が強く反発した。ロイド=ジョージは、この予算は国民の福利のために地主階級の資産に課税するのはやむを得ないと階級闘争を煽り、マスコミはこの予算を「人民予算」と名付けた。予算案は11月に下院で可決されたものの、上院では大差で否決されてしまった。そこでアスキスは下院を解散し、総選挙に持ち込み、1910年1月の総選挙の結果、自由党・労働党・保守党の一部の予算賛成派が多数を占めた。それを受けたアスキスは、選挙で選ばれた下院を通過した予算案が、選挙で選ばれたのではなく大半が世襲貴族に占められている上院によって否決されるのはおかしいと主張し、上院の権限を大幅に削減する議会法案の準備に入った。その法案を通すためには賛成派議員を乗員でも増やさなければならないので、アスキスは新たに貴族を大量に叙爵(300~500人)することを国王に迫った。かつてグレイ内閣が選挙法改正(第1回)を成立させるときにも、この方法が用いられたが、その時は上院側が折れたため大量叙爵は行われなかった。1910年5月、国王エドワード7世が急死して新国王となったジョージ5世は、アスキスと会見し、緊急時の貴族大量叙爵に同意した。アスキスは1年間に二度という異例の事態となったが12月に再び解散・総選挙に打って出て、自由党・労働党で過半数を上回り、政権を存続させ、再び議会に大量叙爵の圧力をかけた。その結果、ついに上院の保守党議員が根負けして賛成にまわり、議会法が通過成立した。

アイルランド自治法案

 1912年4月、アスキス内閣は「アイルランド自治法案」を議会に提出した。既に前世紀末に自由党グラッドストン内閣が二度にわたり否決されていた法案であったが、翌1月、下院は通過したものの、これも上院で否決された。アスキスは、議会法によってこの後2会期連続して下院を通過すれば貴族院の反対があっても成立する見通しだったので静観したが、その間、国王の調停で与野党間に「アルスターを除いたアイルランドへの自治権付与」という妥協案が成立した。しかし、このアイルランド自治法案は、1914年6月、サライェヴォ事件の勃発によって第一次世界大戦に突入したため採決は延期・凍結されることとなった。

第一次世界大戦の挙国一致内閣

 1915年5月、それまでの対立を棚上げにした自由党と保守党は「挙国一致内閣」を作ることで合意し、首相にアスキスが就任、自由党からロイド=ジョージ、チャーチル、保守党からバルフォア、ボナ=ロウなどが入閣した。労働党からも閣僚が出て初めての挙国一致内閣が発足し、新たに軍需省が創設され、総力戦に対応することとなった。
ロイド=ジョージとの対立
(引用)しかし戦争指導を得意とせず、1916年9月に長男を西部戦線で失って以来「酒浸り」になっていたアスキスが首相では、イギリスの勝利は危ういものだった。陸相に転じていたロイド=ジョージは、保守党党首ボナ=ロウ(植民地相)や労働党代表のアーサー・ヘンダーソン(商務相)らと協力し、戦争指導の事実上の権限を首相から取り上げて、彼らからなる小委員会に移行しようとした。アスキスはこれを阻止する構えに出て、ここにロイド=ジョージとの決裂が決定的となった。<君塚直隆『物語イギリスの歴史下』2015 中公新書 p.139>
 12月に国王ジョージ5世は各党指導者をバッキンガム宮殿に呼び寄せ、御前会議での裁定でロイド=ジョージが首相と決まり、アスキスとその一派は閣外に去った。この新たな挙国一致内閣が第一次世界大戦でのイギリスの戦争指導に当たった。
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ノートの参照
第14章1節 イ.イギリス
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君塚直隆
『物語イギリス史 下』
2015 中公新書