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イマーム

イスラーム教徒の共同体指導者を意味する語。特にシーア派では第4代カリフ・アリーの子孫の12代をイマームとした。

 イスラーム教で信者の共同体(ウンマ)の「指導者」を意味するアラビア語。スンナ派ではカリフおよびすぐれたウラマーをイマームと称しているが、シーア派では特別な意味となり、第4代カリフ・アリーの子孫のみを「最高指導者」の意味でイマームと称する。シーア派ではイスラーム教の奥義はムハンマドの血縁であったアリーの子孫にのみ伝承されていると考え、そのイマームに忠誠を誓うことが信仰の重要な要素となっている。

十二イマーム派

 シーア派の中の多数派である十二イマーム派は、初代イマームのアリーから数えて十二代目のイマーム、ムハンマド=ムンタザルは「お隠れ(ガイバ)」の状態にあり、世界の終末が近づいたとき救世主として再臨すると信じている。シーア派にはイマームの継承をめぐってザイド派やイスマーイール派などの分派も発生したが、その主流派は十二イマーム派で、現在のイラン=イスラーム共和国の国教となっている。

参考 スンナ派とシーア派

 イスラームという宗教の中でカリフとイマームの違いをどう理解するかは、重要な意味をもっている。世界史学習の上でもその違いを正しく理解することが、スンナ派とシーア派の関係を知る上でも重要である。しかしその理解にはなお難しいところがあるので、専門家の説明を聞いてみよう。以下、水上遼『語り合うスンナ派とシーア派』より、要約した。
カリフとイマーム 世界史の概説的理解では、預言者ムハンマドの死後「正統カリフ」と呼ばれる四人がウンマ(イスラームの信者共同体)をまとめたとされ、カリフとは神(アッラー)の使徒であるムハンマドの「代理」を意味する、とされる。カリフに対し、「ウンマの指導者」を意味するイマームは別系統の宗教的リーダー(指導者)とされる。イスラームの多数派であるスンナ派はカリフによる統治を正しいと見なすのに対して、少数派のシーア派はそれを否定し、イマームこそが神の指導者であると主張する。そしてシーア派内の多数派である十二イマーム派は(アリーの子孫の)12人の歴代イマームをムハンマドの血と意志を引き継ぐ正当な指導者であると主張し、第5代カリフ以降の地位を嗣いだウマイヤ朝、その後のアッバース朝のカリフを認めない。信者から選ばれたにすぎないカリフは信仰上誤ることがあるが、アッラーの使徒としてアッラーの言葉を聞くことの出来たムハンマドの血統を受け継ぐイマームも誤ることはない(無謬性)と信じられた。
十二イマーム イマームというアラビア語由来の単語には「前に立って人々を導く者」という意味があり、そこから「礼拝の導師」「偉大な学者」などさまざまな意味が派生した。現在もイスラーム宗教学の権威カイロのアズハル学院の総長は大イマームと呼ばれる。イラン・イスラーム革命の指導者ホメイニもイマーム(ペルシア語発音ではエマーム)と呼ばれる。しかし、イマームという語にはムスリムの軌範とされている十人の指導者「十二イマーム」を指すこともある。世界史上の用語として問題とされるのは、この狭い意味のイマームである。 → 十二イマームの細部は十二イマーム派の項を参照。
スンナ派の十二イマーム崇敬 カリフとイマームのどちらが正当な指導者なのか、ムハンマド没後まもなく起こったとされるこの議論は、スンナ派とシーア派の根本的な違いとして理解されている。しかし上記の説明から、カリフを支持すればスンナ派、イマームを支持すればシーア派という単純な区別は、適切ではない。スンナ派のイスラーム学者の多くが、シーア派がイマームとして尊崇しているアリーの一族とその子孫の中に、ムハンマドの血統という高貴さと、当人の行状の正しさなどの優れた特性を持っていたことの伝承を研究しており、それらは「美質の書」として多数残されている。
語り合うスンナ派とシーア派 特に12世紀以降には十二イマームを一つのまとまりとして崇敬するスンナ派学者が多数現れており、その事実を見れば、スンナ派とシーア派には十二イマームを崇敬することで互いに「語り合い」を行う相互関係の歴史があったのであり、宗派対立の歴史だけではなかったことが明らかになってくる。<水上遼『語り合うスンア派とシーア派』《アジアを学ぼう》別巻16 2019 風響社 p.3-6>
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書籍案内

水上遼
『語り合うスンア派とシーア派』
《アジアを学ぼう》別巻16
2019 風響社