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EU憲法

2004年にヨーロッパ連合加盟国によって欧州憲法制定条約が調印された。しかし、翌2005年にフランス、オランダが国民投票で批准が否定され、この憲法は実施されなかった。代わりに2007年にリスボン条約が締結され、現在のEUの枠組みとなっている。

 2004年10月、ローマで「欧州憲法制定条約」がヨーロッパ連合(EU)加盟国25ヵ国首脳によって調印された。加盟各国が条約に署名するという形態をとる「ヨーロッパ連合(EU)の憲法」なので「EU憲法」または「欧州憲法」と言われる。加盟各国の批准によって施行される予定であったが、2005年5月~6月オランダ、フランスが国民投票で批准を拒否したことによって、実現には至らなかった。

EU憲法(案)の内容

 前文と本文全448条から成り、総則、基本権憲章、政策と機能、一般・最終規定の4部で構成され、さらに付属議定書と付属宣言が付属する。
  • 原則 EUとは、共通の未来を築く市民と国家によって形成される。国家は権能の一部を移譲させる。国のアイデンティティ、言語や文化の多様性を尊重する。加盟国の市民は同時にEUの市民である。キーワードは「多様性の中の統一」。
  • 機構 大統領・外相・欧州委員長を置く。大統領はEUを代表し首脳会議の議長を務める。任期2年半で最高5年まで、各国首脳の互選で選出する。外相は外相理事会を主催し、欧州委員会副委員長を兼ねる。EUの外交安保、防衛政策などを主導する。欧州委員長は首脳らの推薦をもとにEU議会で選挙する。EU議会は二院制で、各国の国民によって議員を直接選挙する。
  • その他
    • EUで提案された法律案に各国議会は賛否の意見を述べることができる。
    • 首脳会議などでは全会一致ではなく、加盟国の55%以上が賛成し、賛成国の人口がEU人口の65%以上となった場合に可決とする。(特定多数決制)
    • 人間の尊厳や自由・平等の価値、民主主義と法の支配の原則、死刑廃止などをうたった基本権憲章に法的実効性を持たせる。
  <脇阪紀行『大欧州の時代』2006 岩波新書 p.138->

フランス・オランダの国民投票 EU憲法を否定

 2004年10月のEU憲法(案)はヨーロッパ連合を一個の国家に近い形態に進化させようとするもので、その焦点となったのは「大統領」と「外相」を新設することであった。EU憲法の発効は、加盟国すべてで批准されることとなっていたので、各国での批准が進む中、2005年5月29日に行われたフランスでの国民投票の結果、反対票が上まわり批准が出来ず、推進派に大きな衝撃を与えた。さらに6月1日はオランダでも国民投票が行われて批准が否決され、このEU憲法は実施されないこととなった。
 背景には、それぞれの国民感情の中に、EUの地域統合が進み強大な権力をにぎることへの素朴な反発(特にフランスとオランダではEU統合推進がドイツ中心に進められたとみられたこと)があったと思われるが、それ以外にも2004年にEUの東方拡大によって旧社会主義圏を含む10ヵ国が加盟して、それらの経済的後進地域からの労働力流入が警戒されたこともあった。
 ヨーロッパの人々は、強大な地域統合を質量共に進めるか、各国の主権を維持したうえでゆるやかな統合に止めるべきか、の選択を迫られることとなった。 → イギリスのEU離脱

リスボン条約

EU憲法条約が批准されなかったため、改めて2007年に締結されたEU憲法に相当する基本条約。2009年末に批准がおわり実施された。これによってEU大統領の設置など、現行のEUの枠組みができあがった。

 EU憲法条約は2004年に調印されたものの、2005年フランス、オランダの国民投票で批准が否定されたため実施できないことになった。しかしEU理事会や各国首脳は、経済統合は維持発展させることでは意思を一致させていた。しかもEU加盟国希望の国はさらに増え、2007年にはルーマニアとブルガリアが加盟した。このようななかでヨーロッパの統合を深化させるために、EU憲法に代わる枠組みをつくるべきであるという声も強まった。

リスボン条約の締結と施行

 そのため各国首脳は、冷却期間をおいた上で、EU憲法条約に代わる新条約の締結の準備に入った。その結果、2007年(EECEURATOMの発足を取り決めた1957年調印のローマ条約から50周年の記念の年だった)にドイツが議長国となって全加盟国で協議をとりまとめ、各国代表が合意の上、2007年12月13日にリスボンにおいて新条約が調印された。
 この条約は、正式には「欧州連合条約および欧州共同体設立条約を修正するリスボン条約」という。欧州連合条約とはマーストリヒト条約、欧州共同体設立条約とはローマ条約のことなので、「欧州連合の基本条約を修正する条約」あるいは「改革条約」ともいう。つまり、ヨーロッパ連合は、2004年の「欧州憲法制定条約」に代わって、憲法制定条約ではなく新たな「欧州連合の機能に関する条約」としてこのリスボン条約を締結し、現行のEUの枠組みが決まった。
 リスボン条約は2009年までに加盟国すべてで批准されることを条件としていた。各国でEU懐疑派の反対運動もあったもののイギリス、フランス、オランダなどは2008年、最も遅れたアイルランドの批准が2009年10月となったため、2009年12月1日に批准成立し発効した。ヨーロッパの人々は、EUの過度な国家化には反対したが、その理念とゆるやかな統合の必要性は支持した、と言うことが出来る。
リスボン条約の内容  基本的には2004年のEU憲法の骨子を生かしながら、加盟国の主権を否定してヨーロッパ単一国家に統合するというイメージを払拭するため、最も抵抗の強かった部分として、「憲法」の用語や欧州連合旗の国旗化などを削除した。新たに規定されたEUの機構のポイントは次のようになった。
  • 最も問題とされたEU大統領にあたる職として、欧州理事会(EU首脳会議。各国の元首、首相が参加)において常任議長(任期2年半、2期まで)を選出することとなった。名称は大統領ではないが、一般に「EU大統領」という称号が定着している。
  • 執行機関としては従来の欧州委員(各国1名)から欧州委員長を1名選出し、行政府の長の役割を担う。2004年案で問題となったEUの外交、安全保障を担う「外相」については、「EU外務・安全保障上級代表」と改められ、EUの対外的な窓口を務めることとなった。
  • 立法にあたるのは従来どおり、2院制で各国国民から直接選出される議員からなる欧州議会が担い、議長を選出する。議長は立法府を代表し、EUの各種法案はその署名がないと執行できない。
  • 司法にあたるのは、ヨーロッパ連合の基本条約の運用や法令の審判などを行うEU司法裁判所があたる。
 リスボン条約でEUは単一国家的な要素をできるだけ排除したが、わかりやすく国家にたとえれば、国家元首にあたるのが欧州理事会議長(欧州大統領、EU大統領ともいう)、立法府にあたるのがEU議会とその代表の議長、行政府にあたるのが欧州委員会とその代表の欧州委員会委員長。外務大臣にあたるのがEU外務・安全保障上級代表ということになる。
 なお、EUを象徴する欧州旗としては濃紺に12(EU発足時の加盟国数)の★を円形に配置した従来のものが用いられ、国歌にあたる「欧州連合の歌」にはベートーベンの第九交響曲の「歓喜の歌」が充てられている。
 → EU MAG(EUマガジン)駐日欧州連合代表部のウェブマガジンEUの条約について教えてくださいを参照。
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