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ヨーロッパ連合(EU)の東方拡大

2004年に東欧などの10カ国が一挙にEUに加盟。25カ国に拡大した。2007年にブルガリア、ルーマニアへと広がったが、旧ソ連圏諸国のEU加盟にはロシアが神経をとがらしており、ウクライナ内戦などの不安定要素となた。またEUの巨大化は加盟国内部にも矛盾を生み出し、2005年のEU憲法の否決、さらに2016年のイギリスの国民投票での離脱派の勝利など、EUを大きく変質させる要因ともなった。2022年2月、ロシアのプーチン政権はウクライナに軍事侵攻、ウクライナはEUに加盟を申請し、緊迫した情勢が続いている。

 2004年5月1日、ヨーロッパ連合(EU)に次の10ヵ国が加盟し、25ヵ国体制となった。
チェコスロヴァキアポーランドハンガリースロヴェニアエストニアラトヴィアリトアニアマルタキプロス
 2007年1月1日にはブルガリアルーマニアが加盟し、ヨーロッパ連合の東方拡大が一段と進んだ。

EU東方拡大の意義

 2004年にEUに加盟した10ヵ国の内、マルタ・キプロスをのぞく8ヵ国はかつて東欧諸国の社会主義圏であった。これによって「鉄のカーテン」によって分断されていたヨーロッパが一つとなり、東西冷戦は完全に過去のこととなったという意義がある。また経済協力圏の拡大のみならず、安全保障面でもNATOと並んでEUの役割が大きくなたことを意味している。
加盟理由 2004年に加盟した東欧諸国は、社会主義体制を捨て市場経済を導入したものの単独では経済の発展は困難であるため、10年来、ヨーロッパ統合に参加することを熱望していた。加盟することによって、社会資本整備に対する援助、雇用の増大、農業補助金の支給などが得られ、また将来的に強いユーロ通貨圏に入るというメリットがあると考えられている。

クロアティアの加盟

 旧ユーゴスラヴィアから分離独立したクロアティアのEU加盟交渉は、クロアティア内戦でのセルビア人への非人道的な戦争犯罪を疑われた人物の国際法廷への引き渡しが条件とされたことから、国内の右派が反発したため開始されなかったが、2005年に逮捕されたことによって交渉がはじまった(この裁判の被告アンテ=ゴドヴィナは結局無罪になった)。その後、2011年まで交渉が続けられ、加盟の合意が成立、2012年に国民投票で批准されたことによって、2013年7月1日に正式に加盟した。クロアティアの加盟によって加盟国28カ国となった(2019年のイギリスの脱退で現在の加盟国は27ヵ国)。
今後の拡大予定 加盟候補国となっているのがマケドニアで、その他の旧ユーゴ諸国も加盟を準備している。しかしまだ具体化していない。トルコ共和国は加盟を申請中だが、EU内部でも反対が多く実現のめどはついていない。

EUの苦悩

 これら中東欧圏諸国の加盟、さらに今後予定されている加盟国の増加は、現加盟国の中のフランス・ドイツ・オランダなどに、先進国側の負担増を懸念して警戒または反対する意見も強い。より大きな経済圏の出現はアメリカ、ロシア、日本などとの競争の激化を予想される。また旧ロシアのウクライナなどの加盟要求にはロシアは強く反対し、ウクライナ紛争の要因となっている。
 EUの巨大化は、何よりもEUそれ自体の大きな問題点を明らかにした。EU理事会など中枢部は、EUの領域拡大と共に、統合を実質的に強めることを目指した。それまでヨーロッパ統合は、自由貿易圏の実現、ヒト・モノ・カネの移動の自由、そしてユーロの導入など、経済的な統合を進めて効果を高めようと言うことが主眼となっていたが、加盟国が増加するに伴い、加盟国の統制と当時にアメリカやロシア、さらに中国などの大国との対抗上、政治・外交の面でも統合を強めなければならないと考えるようになった。そのため、2004年には欧州憲法(EU憲法)条約を調印し、EU大統領やEU外相の創設などを柱とした、連合から一つの国家へと高めることが目指された。
 ところが2005年5月~6月、フランスとオランダの国民投票でEU憲法にを拒否する反対票が上まわったため批准が出来ないという事態となった。これは加盟国の内部にもEU推進派への不信とともに、巨大化によるって自国の主権が奪われるのではないかという素朴な疑問が拡がったためであった。この結果を受けて、EU憲法の批准は停止され、その後、統合国家化の要素を薄めて「憲法」に代わる基本条約という形に変え、2007年にリスボン条約で合意、それが2009年に施行されて、EU大統領(通称)などの設置など、現在の形が固まった。
 ところが、2010年代になってイギリスでEUからの離脱を主張する政治勢力が台頭、その動きはイギリス政府の見通しを上まわって拡大し、2016年の国民投票で離脱が僅かに上まわるという結果となった。こうしてEUは大きな曲がり角に来ている。 → イギリスのEU離脱
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