グローバルサウス
2020年代、南半球に多い新興国が、世界経済や環境問題で発言力を強めたことからグローバルサウスと言われるようになった。2023年から、インドがそのリーダーとしての役割を担うようになっている。
グローバルサウスの概念はまだ明確に定まってはいないが、およそは新興国・発展途上国といわれる国々の総称として用いられる。新興国・発展途上国が北半球の中緯度以南から南半球に位置していたので、先進工業国との利害の対立をかつては南北問題と言われていた。必ずしも地理的分類ではないが、最近ではグローバルサウスという言葉が生まれ、対立する概念としてグローバルノースとも言うことがある。また、東西冷戦時代には、資本主義陣営・共産主義陣営のいずれにも属さない第三世界というグループ分けが行われていた。
グローバルサウスの枠組みでインドが主導権を持つことに対しては、すでにある東南アジア諸国連合との関係、BRICSで重なっているブラジルとの調整など、まだまだ流動的な要素が多い。しかし、人口・資源・環境などのグローバルな問題での「南」諸国の発言の重要性は増しており、また新たな発展途上国の主張として、先進国に生まれた多国籍企業に対する平等な課税などの問題が提出されており、今後の議論の進み方が注目されている。 → グローバリゼーション
公正な課税を目指す国際NGO「税公正ネットワーク」(TJN)は、「富裕国クラブ」であるOECDは60年以上も国際課税ルールに関する意思決定権を独占し続けており、今回の決議は、すべての国参加する国連に意思決定権をうつすこにつながるとして「世界中の人々の利益のためにグローバルサウスの国々がもたらした歴史的な勝利だ」と讃えている。
ウクライナ侵攻後の情勢
グローバルサウスと言うことばが急速に国際社会で用いられるようなったのは、2022年2月のプーチン政権ロシアのウクライナ侵攻が契機となった。多くの国がロシアの侵略行為を非難し、侵攻直後の3月の国連総会での非難決議案には加盟国総数193カ国のうち、賛成が141カ国、反対5カ国であったが、棄権35カ国・無投票12カ国あった。このとき中国、インドはともに棄権し、グローバルサウスと言われる国々の多くが含まれていた。棄権はロシアにもウクライナ(その背後にあるNATO)にも与しないことの意思表示であり、特に大国インドがそのリーダーとしての重要性を増すこととなった。インド、グローバルサウスを提唱
インドは2023年にG20の議長国となった。モディ首相は、議長国を務めるにあたり、インドをグローバルサウスの一員と位置づけると表明した。G20は、G8(ロシアが2014年のクリミア併合によって除名されてからG7になる)に、2008年のリーマン=ショックを契機として新興経済大国11カ国とEUがが加わってできた国際経済協力首脳会議であるが、議長国インドはそれに、バングラデシュ、モーリシャス、オマーン、シンガポール、UAE、エジプト、オランダ、スペイン、ナイジェリアを招待した。インド洋に面した諸国に声をかけたところにインドの意図が表れている。またエジプトはスエズ運河を所有しており、インドの海外貿易にとって欠かせない国だった。モディ首相はG20をインドが国際社会での活躍の場とすることで、グローバルサウス諸国での主導権を握ろうとしている。その際、インドの外交姿勢の基本は伝統的な中立外交であるということをあげ、ウクライナ戦争の停戦を働きかける一方でロシアの原油を輸入し続けていることを正当化した。こうしてグローバルサウスが国際政治の一つのキーワードとして使われるようになったが、それに属するとされるインド以外の諸国では必ずしも浸透した概念とはなっていない。<近藤正規『インド――グローバル・サウスの超大国』2023 中公新書 p.227238>グローバルサウスの枠組みでインドが主導権を持つことに対しては、すでにある東南アジア諸国連合との関係、BRICSで重なっているブラジルとの調整など、まだまだ流動的な要素が多い。しかし、人口・資源・環境などのグローバルな問題での「南」諸国の発言の重要性は増しており、また新たな発展途上国の主張として、先進国に生まれた多国籍企業に対する平等な課税などの問題が提出されており、今後の議論の進み方が注目されている。 → グローバリゼーション
「課税のための包摂的枠組み条約」の議論
2023年11月22日、国際連合総会本会議において、課税のための国際協力を「完全に包摂的でより効果的なものとするため」に国際連合枠組み条約の策定が必要であると宣言する決議が、125ヶ国の賛成で採択された。決議によって条約案起草に向けて政府間委員会が設立され、2024年8月までに草案をまとめることとなった。賛成したのは提案国ナイジェリアなどのいわゆるグローバルサウス諸国であり、反対は48ヶ国、棄権9ヶ国であった。反対した諸国は日本も含む経済協力開発機構(OECD)加盟国であり、反対理由は課税の国際的平等化はすでに議論が行われている、という根拠薄弱なものであった。公正な課税を目指す国際NGO「税公正ネットワーク」(TJN)は、「富裕国クラブ」であるOECDは60年以上も国際課税ルールに関する意思決定権を独占し続けており、今回の決議は、すべての国参加する国連に意思決定権をうつすこにつながるとして「世界中の人々の利益のためにグローバルサウスの国々がもたらした歴史的な勝利だ」と讃えている。
GAFAのタックスヘイブンを直撃
今回の決議が標的にしているのはGAFAと称される、Google,Apple,Meta(旧フェイスブック)、Amazon などのアメリカ多国籍企業であり、彼らは法人税負担率をゼロに近く下げられる租税回避地(タックスヘイブン)に子会社を置き、他国で得た利益を租税回避地に移転して課税を逃れている。TJNによると、多国籍企業の税逃れで失われる全世界の税収は年間3110億ドル(約46兆円)に上るという。税逃れへの批判は2008~09年の世界金融危機後に高まり、OECDも対策に乗り出し、21年10月には「包摂的枠組み」として①合算課税(多国籍企業の利益を合算して、その一部を市場国に配分する仕組み)、②最低法人課税(海外子会社の税負担率が15%未満の場合親会社所属国が15%まで課税する仕組み)、の2本柱の解決で合意した。しかしグテレス国連事務総長は2023年7月にOECDの対策は途上国にとって限定的な効果しかもたない、と指摘した。今回の国連決議は、意思の場をOECDから国連に移すことで途上国・新興国や市民社会の意見を反映できると期待されている。<しんぶん赤旗 2024/3/27 すいよう特集による>