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遊牧民

乾燥、草原地帯で家畜の遊牧に従事している人びと。

 遊牧というのは、牧畜の一形態で、家畜の飼育に適した環境を求めて、季節ごとに移動を繰り返す牧畜形態を言う。けして無計画に移動するのではなく、ほぼ一定の地域を一定のサイクル(夏営地と冬営地)で移動するのが通常であるが、農耕民や定住牧畜民と違って都市や村落を形成せず、常に移動に便利なテント式の住居(ゲルとか、パオという)を用いる。家畜は羊、山羊、馬、牛、ラクダが主なもので、食料、住居などあらゆるものを家畜に依存する。通常は部族ごとの集団で行動し、血縁的原理が重視される社会である。遊牧社会では富の蓄積には適さず、自然条件の変化に左右されやすい生活を送っているので、農耕民との交易による物資の調達は重要であり、時として略奪行為に及ぶことが多かった。交易と略奪の境界はあいまいだったようである。彼らは騎馬技術に優れているので、それを軍事力に活用して征服活動を行ったのが騎馬遊牧民である。彼らは草原の道(ステップ=ロード)ぞいにたびたび遊牧国家を造り出している。
 世界史上、重要な遊牧民は、西アジア・中央アジアの乾燥・草原地帯で活動した、アラブ人トルコ人モンゴル人である。現在ではほぼ定住化しているが、少数の遊牧生活を送る部族が西アジア、中央アジアの他、アフリカなどに存在している。彼らは中央アジアだけでなく、ユーラシア大陸の各地で遊牧国家をつくりだしてきた。

遊牧民の生活

(引用)かれら遊牧民は、家畜の毛皮とか皮革とかでつくられ、騎馬と防寒とに適した袖つき短衣やズボンをまとい、羊・馬などの家畜の肉を食べるほかに、馬乳を発酵させたいわゆるクミズを飲み、また、バター・チーズなどの乳製品をこのみます。かれらの住居は、家畜の毛を材料とするフェルトや皮革でおおわれた、解体自在の移動式テントであり、その縫い糸や弓の弦は家畜の腱から、狩猟用の矢じりなどはその骨から、また、各種の容器はその皮革から、それぞれこしらえられました。いや、それだけではありません。家畜の糞を乾燥させれば、それは、砂漠地方に生える灌木とともに、すぐれた燃料となり、また、一種の羊の蹄はそのまま酒器として、さらに革袋は川をわたるさいの舟としても、つかわれたのです。  このように、遊牧民のくらしが、なにからなにまですべて、家畜との共同生活の範囲内でまかなわれるよう組み立てられているとするならば、その家畜は、かれらにとって、ただ一つの基本的財産であったといっても、けっして言いすぎではないでしょう。<護雅夫『遊牧騎馬民族国家』1967 講談社現代新書 p.32>
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第4章1節 ア.遊牧民の生活と国家
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護雅夫
『遊牧騎馬民族国家』
1967 講談社現代新書