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大学/ユニベルシタス

大学の設立は中世ヨーロッパにおいては、12世紀ルネサンスの動きとともに始まった。イスラーム圏でもモスク付属の大学が作られている。

 大学の起源は、中世ヨーロッパにある。中世のイタリア、フランス、イギリス、ドイツ、スペインなどで、ローマ以来の自由民の一般教養とされた七自由学科と、神学・医学・法学の三専門学部にわかれる上級学部で学んだ。神学を中心とした教会付属の学校を基礎とし、十字軍以来流入したアラビア文明の影響を受けて医学や哲学の研究を行う組織として生まれた。当初は教会や修道院に属する教育機関が主体であったが、12世紀になると商業の発展に伴って都市が成立し、都市に医学や法学を学ぶ学生が集まり、大学が生まれた。大学の発生は12世紀ルネサンスの一つの動きとされている。さらに中世後期に各国の王権の伸長に伴い、国家の官吏や法律の専門家の養成も必要とされて、主要な政治都市に大学が建設されるようになった。

主な中世ヨーロッパの大学

 ヨーロッパにおける大学は、12~13世紀のイタリア・イギリス・フランスでまず生まれて盛んになった。神聖ローマ帝国(ドイツ圏)では遅れて14世紀の中ごろにうまれた。
イタリア
  • サレルノ大学 11世紀に南イタリアのサレルノでイスラム文化の影響を受けて生まれた医学学校が13世紀に大学に成長した。最古の大学の一つ。
  • ボローニャ大学 1119年、北イタリアのボローニャ大学が、法学を学ぶ学生の自主的な団体としてつくられ、大学として運営されるようになった。
イギリス
  • オックスフォード大学 12世紀にイギリスで作られた。自然科学の研究で大きな成果を出すようになる。学寮制度を発達させた。
  • ケンブリッジ大学 1209年にオックスフォード大学から分かれて成立した。こちらも自然科学の研究が盛んで、学寮がおかれた。
フランス
  • パリ大学 1200年に発足、神学が隆盛し、その学寮の一つであったソルボンヌがその代名詞となった。
ドイツ(神聖ローマ帝国)
  • プラハ大学 14世紀の中ごろ、カール4世が設立したドイツ語圏で最初の大学となった。

ユニベルシタス

 中世ヨーロッパの大学はボローニャ大学に見られるように、学生が自主的に運営するものであって、学生の一種の同業組合(ギルド)であって、当時はラテン語でユニベスシタスといわれていた。教師と学生の組織だけでなくその他のギルドもユニベルシタスと云われていたが、次第に大学だけがそう言われるようになった。ユニベルシタスはそれが現在の大学(ユニバーシティ)の起源となった。
 現在では、University は「総合大学」(複数の学部をもつ大学)、College は本来は慈善的に設けられた貧窮学生のための学寮の意味であったが、現在では単科大学という意味で使われている。

中世の大学の二類型

 中世ヨーロッパの大学であるユニベルシタスは、教師と学生によって構成されたギルドであり、教師と学生が大学の自治の担い手であったが、ギルドの存在形態が地域、時期によって異なるように、ユニベルシタスのあり方にも違いがあった。その中で対照的な存在が、ボローニャ大学とパリ大学であった。その違いは成立事情の違いから起こっている。
  • ボローニャ大学型=学生が自治の主体となった。ボローニャ大学の学生は市民ではなく勉学のために市外から来た者であった。彼らは一時滞在者であるため市民権を持たなかったので、出身地別に同郷者組合を作り自衛と相互援助に努めた。それに対して教師はボローニャ市民だったので組合に入る必要がなかった。そのためボローニャ大学の運営権は学生が握るようになり、市当局とも交渉した。交渉に当たって学生は他都市への大学の移転をほのめかすと、市当局は市の財政が大学に依存していたので学生たちに譲歩しなければならなかった。学生たちは教師よりも年長である場合が多く、力のない教師をやめさせることもできた。
  • パリ大学型=教師が自治の主体となった。ノートルダム付属学校から出発したパリ大学は教師も学生も聖職者とみなされたので、双方とも市民権を持たなかった。そのため教師もユニベルシタスをつくり、学生のユニベルシタスより力を持っていた。パリ大学は教師の大学といわれ、後にできたヨーロッパの諸大学はパリ大学を先例とするところが多かった。
<鯖田豊之『世界の歴史9 ヨーロッパ中世』1989 河出書房 p.341-344>

イスラーム世界の大学

 大学は中世ヨーロッパのキリスト教世界で始まったとされているが、イスラーム圏でも同じような高等教育、研究期間があったことを忘れてはならない。イスラームの都市のモスクにはそれぞれコーランを教える初等教育機関としてマドラサ(メドレセ)が作られ、ウラマーという神学者が養成された。ファーティマ朝では972年、カイロにアズハル学院が設立された。これは当初はシーア派の神学研究機関であったが、後にスンナ派の正統神学の確立のための機関とされるようになり、現在に至っている。現在はアズハル大学と名乗っており、イスラーム圏最大の「大学」である。しかもこれは1119年設立のボローニャ大学よりも古いこととなり、こちらの方が「最古」だといえる。なお、イスラーム圏最古の大学はイブン=シーナーらが学んだブハラに作られた大学であるとの説明もある。  
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書籍案内

ジャック・ヴェルジェ
大高順雄訳
『中世の大学』
1979 みすず書房

鯖田豊之
『世界の歴史9
ヨーロッパ中世』
1989 河出書房