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ヒトラー内閣

国会第一党となったナチ党の党首ヒトラーは、1933年に首相に任命され、権力を握った。

ヴァイマル共和国の命脈は尽きていた

 ドイツ共和国ヴァイマル憲法は、形の上では議院内閣制をとっおり、1928年の総選挙で第一党となって社会民主党政権が成立していたが、世界恐慌が起こるとこの内閣は対応することが出来ず、総辞職した。ヒンデンブルク大統領は、もはや議会から首相を選出することは出来ないとして、大統領緊急命令権を行使して、ブリューニングという人物を首相に任命した。彼はカトリック中央党に属していたがこの党はわずか62名の議員しかいない、第3党にすぎなかった。こうして、ヴァイマル憲法の国会の多数派が内閣を構成するという議会制民主主義は行われなくなった。しかし、このような少数派内閣は国政上機能できず、議会と対立すると解散で対抗した。この時行われた、1930年9月の総選挙でナチ党は議席を107に伸ばし、最初の成功を収めた。ブリューニング内閣はついに安定した政権を築くことが出来ず、その後も保守派のパーペンや国防軍の黒幕として暗躍していたシュライヒャーが首相に任命されたが、彼らはいずれも共和政を終わらせ、君主政を復活させることが望みであった。しかし、いずれも短命に終わり、混乱が続いた。
(引用)ヒトラーは1930年9月の総選挙で最初の大きな成功を勝ち得たが、ヴァイマル共和国の命脈はこの年すでに尽きていたのである。その三月につくられたブリューニング政権はそもそも、議会の民主的方法で政府を選ぶことができない状況のために大統領命令でつくられた最初のものであって、この大統領内閣が、まだ細部まで考え抜かれていない漠然たるものだが、ある、まったく別の国家・憲法秩序(引用者注・君主政国家のこと)への橋渡しをするはずだった。<セバスチャン・ハフナー/赤羽竜夫訳『ヒトラーとは何か』1979 草思社 p.62>
ヒトラーとヒンデンブルク
1933年3月 国会開催式での
ヒトラー(左)とヒンデンブルク
山本英行『ナチズムの時代』
世界史リブレット49 p.23

ヒトラー内閣の性格

 1933年1月30日、ヒンデンブルク大統領は、1932年7月の選挙で第一党となったナチ党の党首ヒトラーを首相に任命せざるをえなかった。しかし、ヒトラー内閣は、議会第一党のナチ党と保守派の連合政権であった。11名の閣僚のうち、ナチスはヒトラーを含めて三人にすぎなかったヒトラーは3月の国会開催式をフリードリヒ大王の墓所のあるポツダムで挙行し、伝統の継承と、ヒンデンブルク大統領に代表される保守的支配層との和解を演出した(右の写真)。保守派が優勢な寄り合い所帯では、ヒトラー政権は長続きしないだろう、というのがおおかたのみかたであった。しかしヒトラーとナチスは、半年もたたないうちに、一党独裁体制をほぼ作り上げることに成功する。<山本英行『ナチズムの時代』1998 世界史リブレット49 山川出版社 p.23>

国会放火事件と全権委任法

 ヒトラーが議会政治を無力化し、実質的な独裁体制を築くのにはどのような手段を執ったのだろうか。
 政権についたヒトラーはただちに「マルクス主義にたいする攻撃」をスローガンにして、総選挙に打って出た。その選挙戦の最中、2月27日に国会議事堂放火事件が起きると、それをドイツ共産党員のしわざと断定し、翌日「民族と国家を防衛するための大統領緊急令」をだし、憲法で保障された基本的人権を停止し、反政府活動を予防拘束できることにした。3月、新しい議会が開かれると、全権委任法を提出し、国会で可決させた。これは政府に対して国会の議決をせずに法律を制定する権限を与えた者であった。4年間の時限立法とはいえ、国会の立法権を否定する法律を国会自体が可決したのは不可解だが、多数を占めるナチ党にカトリック中央党が賛成し、反対党の社会民主党や共産党は多くが拘束されている状態で、反対しても少数にとどまらざるを得なかったのだった。

基本的人権の否定

 5月1日にはメーデーを「国民的労働の日」に衣替えして盛大に祝ったが、翌日には労働組合を解体し、経営者も含む「ドイツ労働戦線」という、いわば御用組合に一本化された。5月10日には宣伝省ゲッベルスの発案でベルリンで共産主義や自由主義に関する書籍が、ナチ党を支持する学生らによって一斉に焼かれるという、焚書が行われた。ついで社会民主党も活動を禁止され、ナチ党以外の政党は7月はじめまでに解散に追い込まれた。
 こうしてナチスドイツにおいては、労働組合活動の自由、思想信条の自由、政党活動の自由と言った基本的人権がわずか半年の間に奪われてしまった。
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ノートの参照
第15章4節 エ.ナチス=ドイツとヴェルサイユ体制の破壊
書籍案内

セバスチャン・ハフナー/赤羽竜夫訳
『ヒトラーとは何か』
1979 草思社

山本英行
『ナチズムの時代』
世界史リブレット49
1998 山川出版社