グプタ様式
インドのグプタ朝時代のアジャンター石窟寺院などに見られる芸術様式。ガンダーラ様式のヘレニズム的な要素は消え、インドの独自性が強まり、中央アジアを経て中国・日本にも栄光を与えた。
グプタ様式の仏像
『南アジア史』より
インドのグプタ朝時代に生まれた芸術様式で、特に仏教の仏像やヒンドゥー教の神像の彫刻に見られる。代表例はアジャンター石窟寺院の仏像と壁画である。クシャーナ朝時代のガンダーラ様式ではヘレニズムの影響を受けてギリシア風の彫刻が主流であったが、グプタ様式ではギリシア的要素は一掃され、純粋なインド風の表現となったとされる。特に仏像では繊細な衣の襞をまとい、手足の輪郭を強調するのが特徴で、中央アジアのバーミヤンなどを経て北魏時代の雲崗などに伝わった。
優雅で繊細なグプタ仏
グプタ様式の仏教美術としては、アジャンター石窟の壁画が最も典型的なインド独自の様式を示しているが、仏像彫刻ではマトゥラー美術と言われる、マトゥーラで作られたものが代表的である。左の写真の仏像は5世紀のマトゥーラ仏で、グプタ様式を代表する名品とされている(インド・カルカッタ美術館蔵)。その風貌は、ガンダーラ仏に比べて気品とか優雅とか表現され、その衣文は薄い衣のひだがやわらかく繊細に、かつ様式的に描かれていてギリシア風のガンダーラ仏とは異なっている。アジャンター石窟寺院の壁画が法隆寺金堂の壁画の源流とされているように、仏像彫刻もグプタ仏が中国を経て日本の仏像彫刻に影響を与えていると考えられる。<写真は、辛島昇編『南アジア史』世界各国史7 2004 吉川弘文館 p.121>